読書感想『ひとりの双子』はアイデンティティと家族について考えさせられる

小説ひとりの双子

こんにちは。

アメリカの小説「ひとりの双子」を読みました。

この物語は、双子の姉妹、デジレーとステラを通して、家族やアイデンティティ、人種問題、そして人生の選択を考える作品になっています。

双子は子供の頃は切っても切れない存在でした。

しかし大人になるにつれ異なる方向へと進み始めます。

その理由がなんとも苦しく切なく・・・。

原題は「The Vanishing Half」

小説「一人の双子」の原題

新田啓子さんの解説で「消えゆく片割れ」と訳されています。

単行本情報

著 者:Brit Bennett/ブリット・ベネット

翻 訳:友廣純

出版社:早川書房

発売日:2022年3月26日

ページ数:480ページ

主な登場人物

  • アデル:母
  • デジレー:双子の姉
  • ステラ:双子の妹
  • ジュード:デジレーの娘
  • ケネディ:ステラの娘

ストーリーの概要

物語は、1968年代から始まります。

デジレーとステラの住む町はアメリカの南部、肌の色が薄い黒人ばかりが住む町

貧しさや差別に直面しながらも、二人は仲良くお互いを励まし合いながら暮らしていました。

しかしある日突然、お金がないため学校を辞めさせられ、好きでもない仕事につかされることになります。

こんな生活から抜け出したい。二人は家出を決行します。

家出する双子

向かった先はニューオーリンズ。

この街で、いつも一緒だった二人に転換点が訪れます。

妹ステラはここで白人男性と出会い結婚、自分の人種を隠し白人の世界で暮らすことを決めます。

そうして新しい人生を手に入れたステラですが、その決断が今後どのような影響が出るのか、この頃はまだ考えもしませんでした。

結婚式

一方、姉のデジレーは、出会ったった中でいちばん肌の黒い男性と結婚し、自分のアイデンティティを受け入れることを選択します。

しかし数年後、夫の暴力がひどくなり、命の危険を感じ娘を連れて故郷へ逃げ帰ります。

父親から逃げる親子

そして後半、

物語の中心は双子の姉妹から、お互いの娘たちへと移っていきます

内容は人種問題と重いテーマではありますが、登場人物たちの心理描写が細やかで、物語に入り込みやすくなっています。

そして終盤、ついに双子姉妹が再会するところまで話は進んでいきます。

考えさせられるテーマ

この小説では、アイデンティティと家族について深く掘り下げられています。

妹ステラ側では、パッシング(なりすまし)することで、人種差別の現実を避けることができました。

しかし嘘がばれることを恐れ、自分や家族に対する自己否定感で苦しみます。

また姉デジレー側では、人種内差別(カラー・ストラック)という、同胞であっても肌の色が薄いか濃いかで区別している差別認識を、故郷、夫、娘との関係で描いてあります。

感想とまとめ

物語は、人種問題に関する洞察力に富んだ描写が多く含まれています。

ステラにおいては、なぜそうまでして家族を捨てたのか・・

と考えると、

ステラには姉よりも強く明確に「自分の人生への夢」を持っていたからのように思います。

こそこそせずに自分らしく生きたかった・・・。

半分づつの体

そして最後に、原題にあるHalf

「片割れ」以外にも、

  • 嘘と本当の2つの人生
  • アイデンティティ
  • 肌の色
  • パッシング(なりすまし)
  • トランスセクシュアル

など、いろいろなHalf(半分)が込められているのではと、そう思いました。

心に深く残る一冊です。

それではまた。