ピーター・スワンソン『9人はなぜ殺される(原題:Nine Lives)』は、
アガサ・クリスティの『そして誰もいなくなった』と
『ABC殺人事件』へのオマージュがはっきりと感じられるミステリです。
ある日、9人のもとに突然「名前だけのリスト」が送られてきて、
理由もわからないまま命の危機に巻き込まれていきます。
なぜこの9人なのか。
どんな共通点があるのか。
読み進めるほどに、謎ばかりが増えていきます。
今回は主役級の人物が9人と多いため、一人ひとりの特徴が覚えられないんじゃないか・・・
という不安はよそに、短い描写で印象づけていくスワンソンの描き方はさすがでした。
ここからは、物語を読みながら私が感じたことをまとめていきたいと思います。
タイトル:『9人はなぜ殺される』
著者:ピーター・スワンソン
翻訳:務台夏子
出版社:東京創元社(創元推理文庫)
発行日:2025年6月27日
ページ数:413ページ
Title: Nine Lives
Author: Peter Swanson
Country of Publication: United States
Year of Publication: 2022
Genre: Mystery / Crime Fiction
もくじ
簡単あらすじ

ある日、アメリカ各地に暮らす9人のもとへ、
【自分の名前を含む9つの名前が書かれたリスト】が届く。
お互いに面識もなく、共通点も見いだせないまま、
リストの名前は一人、また一人と命を落としていく。
なぜこの9人なのか。
犯人は何を基準に選んだのか。
静かに迫り来る恐怖と、見えない糸を探りながら、
9人をつなぐ何かが少しずつ姿を見せはじめる。
原題が示すもの|Nine Lives

原題: Nine Lives
邦題: 『9人はなぜ殺される』
Nine Lives(ナイン・ライブズ) は、直訳すれば「9つの命」。
これは
A cat has nine lives(猫には9つの命がある)
という言い回しが元になっていて、
「高いところから落ちても体勢を変えて着地する」
そんな猫のしぶとさや強い生命力が、この表現の由来と言われます。
つまり、Nine Lives には、
「何度危険にあってもしぶとく生き延びる」
「なかなか死なない」
「サバイバル能力が高い」
というイメージを含んでいます。
9人それぞれの命がどこへ向かうのか。
その気配が、タイトルからじわりと伝わってきます。
Nine Lives と Memento Mori が重なるところ

作中では、ミュリエル・スパークの
『死を忘れるな(Memento Mori)』にも触れられています。
Memento mori はラテン語で
「死を忘れるな」= 今をどう生きるか、を思い出す言葉。
「Nine Lives(9つの命)」と響き合いながら、
物語にいくつものレイヤーを添えています。
ただ、この物語で語られる 「忘れてはならない過去」 は、
どこか胸にひっかかるような苦しみを残します。
誰かの選択や過ちが、思いがけない形で別の人生に影を落としていく。
そんな、人間関係の理不尽さがどんどん滲み出てくるからです。
その痛みを含んだ余韻が、
Nine Lives と Memento mori のテーマを
より深く響かせているように感じました。
「誰の過去が、誰の未来に影響を及ぼすのか」
ちょっと怖くなる思いもあります。
9人それぞれの人生が浮かび上がる物語構造
スワンソンが巧みなのは、9人全員を数ページで印象付ける人物描写です。
- 過去の傷を抱える人
- 家族との距離に悩む人
- 静かに孤独と向き合う人
人物の断片が少しずつ重なり、
見えない糸でつながっていく構造は、
『そして誰もいなくなった』の緊張感を現代的な形で再構築してているように感じました。
クリスティの2作品を合体させた構造

『そして誰もいなくなった』×『ABC殺人事件』
本作は、アガサ・クリスティ作品の
- 全員が運命に巻き込まれる構造(そして誰もいなくなった)
- 名簿型の犯罪(ABC殺人事件)
を組み合わせて生まれた作品と見れます。
さらに興味深いのは、物語の舞台を限られた場所(例:孤島)
ではなく、アメリカ全土 に広げている点。
広大な地図の上で、逃げ場のない孤島のように9人が追い詰められていく。
これが、スワンソン流の、閉ざされた世界(クローズド・サークル)。
まとめ
ピーター・スワンソンの『9人はなぜ殺される』は、
それはただの人数ではなく、
カルマを帯びた理不尽さがにじみ出た物語です。















クリスティが好きな人はもちろん、
構造ミステリを楽しみたい読者にもおすすめしたい一冊です。