感想『キュレーターの殺人』操られる心と正義の危うさの深層

M.W.クレイヴンの『キュレーターの殺人』を読みました。

この作品は、ワシントン・ポーシリーズの第3作目。

刑事ポーと天才的なデータアナリストのティリー・ブラッドショーの名コンビによる犯罪捜査を描いたシリーズです。

実は『キュレーターの殺人』を読了したのは2023年1月、もう1年9ヶ月も前のことです。

あまりに衝撃的で、心が追いつかず、当時は感想を書くことができませんでした。

ところが最近、ふと読書日記を読み返したとき、以前は気づかなかった新しい見方が浮かんできたのです。

それは、この残酷な物語の奥には、状況次第で「人はいつでもどちらの立場にもなり得る」という深い教訓が隠されていたのではないか・・・

ということ。

そのことに気づき、今回こそ感想を残しておこうと思いました。

では、ここから本作のレビューを始めていきたいと思います。

書籍紹介

原題:The Curator(2020年作)

邦題:キュレーターの殺人

著者:M.W.クレイヴン

翻訳:東野さやか

発売日:2022年9月20日

出版社 : 早川書房(ハヤカワ・ミステリ文庫)

ページ数:640ページ

M.W.クレイヴン>

イギリス・カンブリア州出身

元保護観察官という経歴を持つクレイヴンは、犯罪の背後にある人間の心理を巧みに描き出し、読者に強い緊張感を与える作品を生み出しています。

今回の『ザ・キュレーター』はシリーズ3作目ですが、これまで以上に緻密で不気味な犯罪が描かれており、目が離せない展開になっています。

『ストーンサークルの殺人』で、英国推理作家協会賞最優秀長篇賞ゴールド・ダガーを受賞

簡単あらすじ

クリスマスの英国カンブリア州で、切断された人間の指が次々と発見される。

発見された場所は、

クリスマスプレゼントされたマグカップの中教会精肉店

そして、

指のそばには、謎の文字列『#BSC6』が残されていた。

3人の犠牲者の身元を追うポーたちは、やがて恐ろしい陰謀に巻き込まれていく。

そして、その裏には想像を超える巨悪なキュレーターが潜んでいた。

キュレーターの意味:操る者の存在

「Curator/キュレーター」という単語は、一般的に美術館や博物館の学芸員を指しています。

展示品の収集や管理を行う専門職ですが
文脈によっては「管理者」や「監督者」という意味でも使われます。

本書『キュレーターの殺人』では

この言葉が転じて「事件を裏で操る管理者」として描かれています。

犯人は、直接手を下さず、他人を巧みにコントロールして事件を引き起こしていきます。

こうした存在が「Curator」と呼ばれ、その冷酷さと計画性が物語の恐怖を一層際立たせているのです。

眼窩前頭皮質 の調整異常とは

作中で言及されていた
「眼窩前頭皮質(がんかぜんとうひしつ)の調整異常」という言葉。

眼窩前頭皮質は、脳の前頭葉にあり、意思決定や感情の調整に関わる重要な部分です。

正常に機能していれば、適切な行動が取れ、感情のバランスも保たれます。

しかし、これがうまく働かなくなると、

感情をコントロールできずに衝動的な行動を取ったり、リスクの高い選択をしてしまうことがあるようです。

作中では、この状態が「洗脳」として描かれ、物語に強い恐怖感をもたらしていました。

「群衆の人」の引用が意味するもの

エドガー・アラン・ポー著『群衆の人

『キュレーターの殺人』では、

エドガー・アラン・ポーの「群衆の人」から引用された印象深い一節が登場します。

語られることを許さぬ秘密というものがあるのよ

この「語られることを許さぬ秘密」も、物語の重要な鍵となっていきます。

秘密を守ることの重さや、それに伴う道徳的・倫理的な葛藤に苦しむ登場人物たちの最終的な選択に、ぜひ注目してみてください。

まとめ

『ザ・キュレーター』が描く恐怖の背後には、弱い心を持つ人々を操る存在への警鐘があります。

サイコパスや操る者がどのようにして心の弱い人々をコントロールし、恐ろしい行為を実行させるか、そのプロセスが克明に描かれています。

この作品には、そうした危険に気づき、心を守る手段を考える必要がある、

という大きなメッセージが込められていると感じました。

それと同時に、

私たちが「正義」と信じる行為が、果たして常に光の側にあるのか、

一歩間違えると闇に足を踏み入れる可能性があるのではないか……

という問いかけも心に残ります。

そういった「正義」と「闇」の境界線を考えさせられる作品です。

ぜひ、この作品を手に取って、感じ取ってみてください。

<ワシントン・ポー>シリーズ一覧

① 『ストーンサークルの殺人』
原題:The Puppet Show
概要:ストーンサークルで行われる連続殺人事件をワシントン・ポー刑事と分析官ティリー・ブラッドショーが追う物語。

② 『ブラック・サマーの殺人』
原題:Black Summer
概要:数年前に失踪したとされる女性が突然現れ、事件は複雑な展開を見せる。ポーとブラッドショーが再び手を組んで謎に挑む。

③ 『キュレーターの殺人』
原題:The Curator
概要:クリスマスシーズンに発生する猟奇的な連続殺人事件。被害者に残された暗号が次々に事件を解き明かしていく。

④ 『グレイラットの殺人』
原題:Dead Ground
概要:国家の秘密に絡む殺人事件が発生。ポーは国家の陰謀に挑む中、命を懸けた捜査に突き進む。

⑤ 『ボタニストの殺人』上・下
原題:The Botanist
概要:植物の知識を駆使して行われた毒殺事件が発生。ポーとブラッドショーが犯人の真意を追い詰めるスリリングな展開。

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