感想|『ボタニストの殺人』詩と毒、そして密室の謎

今回読んだのは
M・W・クレイヴンの『ボタニストの殺人(原題The Botanist)』

今作は上下二巻セット。

ワシントン・ポーとティリー・ブラッドショーの名コンビが活躍する、シリーズ第5作目です。

第1作『ストーンサークルの殺人』 The Puppet Show

第2作『ブラックサマーの殺人』 Black Summer

第3作『キュレーターの殺人』 The Curator

第4作『グレイラットの殺人』 Dead Ground

いずれも東野さやかさん訳、ハヤカワ文庫より刊行。

今回シリーズ第5作目では密室事件が連鎖するように発生し終始スリルと謎に満ちた展開に!


さらに、日本の西表島やフグの毒といったキーワードまで登場し、ちょっとした驚きもありました。


クレイヴン作品といえば、どこまでも英国らしい舞台と空気感が魅力ですが、
そんな中に日本のエッセンスが入り込んでいたのが、意外でちょっと嬉しいポイントでした。

では記憶が新しいうちに、感じたことを自分なりに綴ってみたいと思います。

邦題:『ボタニストの殺人』上・下
著者:M・W・クレイヴン
翻訳:東野さやか
出版社:早川書房/ハヤカワ文庫
発行日:2024年8月25日
ページ数:上巻393ページ、下巻399ページ

Original Title: The Botanist
Author: M. W. Craven
Country of Publication: United Kingdom
Year of Publication: 2022
Genre: Crime Fiction / Mystery

『ボタニストの殺人』ってどんな話?

ところで「ボタニスト(botanist)」とは、植物学者のこと。

本作では、詩と押し花、そして毒を使って人を殺す謎の連続殺人犯の呼び名として登場します。

一つ目の事件は、
押し花と詩を送りつけ、
生放送のTV番組中に毒殺事件が起きるという不可解なもの。

スタジオという密室の中で著名人が命を落としていきます。

犯人は誰? どうやって? なぜ詩?
次々と疑問が浮かび上がります。

もうひとつの事件は、
ポーの友人である病理学者エステル・ドイルが、
父親を殺したとして逮捕されるという衝撃の展開。

こちらも密室。

事情はさらに込み入っていて、彼女は殺人の容疑者として拘束されてしまいます。

この2つの事件が交互に描かれる展開はテンポが良く、読み手を飽きさせません。
どちらも気になる。どちらも手ごわい。

ですが、事件はこの2つで終わりではありません。

さらにもう1件、そしてもう1件と、密室事件が続いていき・・・。

ポーとティリー、ますます名コンビ!

やっぱりこのシリーズの魅力は、ポーとティリーのコンビ。

ぶっきらぼうで情に厚いポーと、天才だけどマイペースなティリー。
この2人の掛け合いが、本当にいいバランスなんです。

ティリーは、無邪気な正論で核心を突くタイプ。
普通なら口にしないようなことも、すっと言葉にしてしまいます。

でもそれがポーとのやりとりの中で、
いい意味でズレた面白さを生んでいて、このシリーズの魅力のひとつになっています。

今回は、ポー&ティリーだけでなく、登場人物どうしの皮肉交じりの会話もとにかく面白くて、シリアスな事件の中にも笑いどころがたくさんありました。

5作目にして、スリルよりも笑いの方が印象に残るほどで、とても楽しく読めました。

日本が出てくる!? 今回は西表島とフグ毒に注目

今回ちょっと驚いたのが、「日本」が登場すること。

それも、沖縄の西表島(いりおもてじま)という、かなりピンポイントな地名です。

さらに、犯人が扱っていた毒の中には「フグ毒(テトロドトキシン)」も。

日本人としては、思わず反応してしまうキーワードが出てきます。

M・W・クレイヴンの作品で、こうして日本が具体的に出てくるのは珍しい気がしました。

ホロヴィッツ作品のように、
毎回何かしらの日本文化がさりげなく登場するシリーズもありますが、

クレイヴンの作品はイギリス国内が中心だったため、今回、日本の地名がふいに現れたときには、ちょっとした驚きと新鮮さを感じました。

著者紹介|M・W・クレイヴン(M. W. Craven)

M・W・クレイヴン
Mike Wade Craven(マイク・ウェイド・クレイヴン)

自国(イギリス)では、Mike Craven(マイク・クレイヴン)と呼ばれているようです。

・1968年生まれ
・イギリス出身の犯罪小説作家

保護観察官(プロベーション・オフィサー)としての長年の勤務経験を活かし、
リアリティのある警察小説を描いています。

ワシントン・ポー&ティリー・ブラッドショーのシリーズで人気を博す

主な経歴
2019年 『The Puppet Show(ストーンサークルの殺人)』でCWAゴールド・ダガー賞(最優秀長編賞)を受賞

イギリス国内にとどまらず、世界中で高い評価を受けている。

詩と毒という美しい恐怖、ボタニストの正体は

「ボタニスト」と名乗る犯人は、ただの毒殺魔ではありません。

ひとつひとつの犯行が、芸術作品のように計算されていて恐ろしい。
とくに、詩と押し花を添えて、手間暇かけていることに恐怖を覚えます。

犯人の動機、感情に、それらは一体どんな意味を添えているのか。

殺意と詩情が共存していて、
不気味なだけでなく、その意図までたぐらなければならない。

最後の展開には驚きましたが、納得もありました。
このシリーズ、毎回「そう来たか」とうならされます。

まとめ|今回も濃厚な満足感!次回作も楽しみ

『ボタニストの殺人』は、シリーズの中でもとくに読みごたえのある一冊でした。

いくつもの事件を絡ませる構成も伏線の張り方も巧み。
ユーモアとスリルのバランスが絶妙で、最後まで夢中になって読みました。

そして何より、日本が出てきたのが嬉しいサプライズ。

ポーとティリーの活躍がますます楽しみになる一冊でした。
次の事件も、きっとまた驚かせてくれるはず。

次作も楽しみに待ちたいと思います

thank you