アンソニー・ホロヴィッツの人気シリーズ第5弾『死はすぐそばに』を読み終えました。
これまでのホーソーン&ホロヴィッツ
シリーズ一覧(1〜5作)
第1作 『メインテーマは殺人』 The Word Is Murder( 2018年)
第2作 『その裁きは死』 The Sentence Is Death (2019年)
第3作 『殺しへのライン』 A Line to Kill (2021年)
第4作 『ナイフをひねれば』 The Twist of a Knife (2022年)
第5作 『死はすぐそばに』 Close to Death (2024年)

4作目までは作家ホロヴィッツ自身が語り手として登場し、私たち読者を物語へ案内してくれました。
今回は一転して、まったく姿を現さない。
ん?これはどう進行していくんだろう?と戸惑いながら第一部を読了。
ですが第二部では、読者の心を見透かしたように、なぜ姿を現さず、三人称の形式で始まっていたのか?の答えが出ていました。
なるほど。
今回の事件はホロヴィッツが知らない「過去の事件」が軸のよう。
ということで、
これまでとは少し違った空気をまとった第5弾について、ここから感じたことを書いてみたいと思います。
タイトル:『死はすぐそばに』
著者:アンソニー・ホロヴィッツ
翻訳:山田蘭
出版社:東京創元社/創元推理文庫
発売日:2024年9月13日
ページ数:487ページ
Title: Close to Death
Author: Anthony Horowitz
Country of Publication: United Kingdom
Year of Publication: 2024
Genre: Mystery / Detective Fiction (Meta-Mystery)
簡単あらすじ

ロンドンの閑静な住宅街で殺人が起き、警察の依頼を受け探偵ホーソーンが調査に乗り出す。
静かなコミュニティに住む住人たちは、それぞれ隠された秘密を抱えている。
やがてホーソーンは犯人を特定するけれど、なかなか追い込むことができない。
今回は、密室の謎も静かに揺さぶりをかけてくる異色作。
犯人はわかっている。でも、すぐには教えてくれない。

この物語では、探偵ホーソーンは自分が手がけた過去の事件なので、真相は知っています。
けれど、その事件を本にしようとしているホロヴィッツには、犯人の名前をなかなか教えてくれません。
そのため、全体を知った上で書き進めたいホロヴィッツには不満が残る。
仕方なく資料をもとに事件を追い、語りは現在形で進んでいきます。
読者もまた、ホロヴィッツと同じ立場で「知りたいのに教えてもらえないもどかしさ」を味わいながら、少しずつ真相に近づいていくことになります。
タイトル『死はすぐそばに』の意味

ホーソーン&ホロヴィッツシリーズでは、
毎回タイトルが作中の何気ない会話から生まれています。
今回は、「クロース」なのか「クローズ」なのかを語り合っていました。
本の原題は
『Close to Death』
「close」には2通りの読み方があり、意味も変わります。
クロース(klóʊs)(語尾の「s」は濁らない)
形容詞で「近い」という意味
クローズ(kloʊz)(語尾の「s」は濁る z 音)
動詞で「閉じる・終わる」という意味
このタイトルでは「クロース」と読み「死はすぐそばに」という意味になります。
事件のあった場所は、テムズ川沿いの「リヴァービュー・クロース」という高級住宅街。きっとこの場所の「クロース」をも含んだニュアスになっているのでしょうね。
ホーソーンの読書会

シリーズを追うごとに、ホーソーンの読書会枠が少なくなってきていて、寂しさを覚えます。
今回は前回よりもかなりさらっと、ホーソーンが参加している読書会の課題本が出てきました。
その本は、
イギリスの作家ジェーン・オースティンの
『初期作品と短編集』
ジェーン・オースティン(ジェインとも表記される)といえば
『高慢と偏見(Pride and Prejudice)』があまりにも有名かと思いますが、初期の未発表作品や短編、未完成小説も複数あり、それらをまとめた本が出版されているようです。
そのほか出てきた本をピックアップすると
- ウィリアム・ブレイクの『毒の木』という詩
- ジョン・ディクスン・カーの『三つの棺』
- エドガー・アラン・ポーの『モルグ街の殺人』
- アガサ・クリスティ『アクロイド殺害事件』
- フランスの作家エミール・ゾラの『テレーズ・ラカン』
- トールキン『ロード・オブ・ザ・リング』
- 島田荘司の『斜め屋敷の犯罪』
- 横溝正史の『本陣殺人事件』
その他出てきた作家や用法
- 「チェーホフの銃」という文学の技法
- ディケンズの「ホット・ジン」
- オメルタ→血の掟
- 『逆さまジェニー』
- イギリスの作家ドロシー・セイヤーズ
- イギリスの作家グラディス・ミッチェル
アガサ・クリスティ、ドロシー・L・セイヤーズ、そしてグラディス・ミッチェルは、いずれもイギリスの「ミステリ黄金時代」を代表する女性作家です
ちなみに、
アンソニー・ホロヴィッツは、日本の本格ミステリにも関心を持ち、とくに『斜め屋敷の犯罪』の島田荘司さんを高く評価されています。
シリーズ第5弾では、とうとうその島田さんの名前が作中に登場。
日本の読者として、こんな形で名が挙がるのはやはり嬉しいものですね。
まとめ
シリーズ第5弾は、これまでとはひと味違う静かな読み心地でした。
真相へ近づいていく感覚がじわじわと心をつかみます。

シリーズはまだまだ続くようですので、楽しみは尽きませんね。

今回はホーソーンの過去をお楽しみください