アイルランド出身の作家リズ・ニュージェント著『サリー・ダイヤモンドの数奇な人生』を読みました。
冒頭の一行目から衝撃が走りました。
その衝撃は私の中で、ロアルド・ダールの短編集『キス・キス』の『豚/Pig』に出てくる少年や、ソン・ウォンピョン著『アーモンド』の少年を思い起こさせるものでした。
本作『サリー・ダイヤモンドの数奇な人生』で描かれるのは、異常な家族環境やトラウマ、そして社会から孤立した人々の心理…。
どこかで見聞きしたような事件がぎゅっと一つに集約されたような感じで、恐ろしいほどの臨場感で押し寄せてきます。
読み終えた今も、作品全体がもたらす余韻と深い問いかけが心に響き続けています。
まだその余韻が残っているうちに、感想をまとめていきたいと思います。
タイトル::『サリー・ダイヤモンドの数奇な人生』
著者::リズ・ニュージェント
翻訳:能田 優
出版社:ハーパーコリンズ・ジャパン/ハーパーBOOKS
発行日:2024年8月25日
ページ数:550ページ
Original Title:『Strange Sally Diamond』
By:Liz Nugent
Place of Origin:Born in Dublin, Ireland
Publication Date:2023
簡単あらすじ
静かな田舎町で暮らすサリー・ダイヤモンドは、周囲から少し風変わりな女性として知られている。
ある日、父の遺体を焼却炉で処理するという驚くべき行動をきっかけに、彼女の過去に隠された秘密が次第に明らかになっていく。
父からの手紙に記された衝撃の告白や、異常な家族環境、孤立した人々の心理が緻密に描かれる衝撃と感動の物語。
どこに興味を持って選んだのか
本屋さんで新刊のチェックをするのが楽しみの一つ。
本書『サリー・ダイヤモンドの数奇な人生』の表紙は、なかなかインパクトのあるデザインでしたが、『数奇な人生』というタイトルから、奇想天外でサクセス寄りの物語だろうと勝手に思い込み、見過ごしていました。
ところが、文庫本の帯に『アンソニー・ホロヴィッツ氏絶賛!』の文字を発見。
気になって裏のあらすじを読んでみると、『6歳までの記憶がない』『遺体を焼却炉で焼く』という衝撃的なフレーズが並び、ただ事ではないストーリーの予感がしました。
これはもう読んでみるしかないでしょう。
結果は遅読な私でも一気読みしてしまうほどでした。
読み終えた今も、その余韻が心に残り続けています。
本全体を通して感じたこと
かなり社会的でセンシティブなテーマが巧みに織り込まていました。
いろんなテーマが一つの物語に凝縮されているのに、過剰に感じることはなく、むしろ物語に深みを与えているところが、この作品の大きな魅力だと感じました。
物語に登場するサリーとピーターの心的障害の違いには、深く考えさせられるものがあります。サリーは一部の記憶を消され、過去を直接的に思い出すことはありませんが、ピーターは覚えています。
ただし、ピーターの場合、父から受けた影響により真実が歪められ、彼自身の行動を形作ってしまっています。その結果、終盤では父の影響が色濃く表れ、サリーとは全く異なる形で心的障害が顕在化していることに気づかされます。
サリーよりもピーターの将来の方が気になってしまい、読んでいて深く考えさせられる展開でした。
まとめ
『サリー・ダイヤモンドの数奇な人生』は、心に深く刺さるテーマと緻密な心理描写が際立つ一冊です。
物語を通して描かれる人間の心の弱さや強さ、そして犯罪がもたらす影響は、一読の価値があります。
個人的にはモヤモヤする終わり方でしたが、むしろその解決しきれない余韻にこそ、この物語の深さがあるのでしょう。
ぜひこの作品を手に取り感じ取ってみてください