サムエル・アウグスト・ドゥーセの『スミルノ博士の日記』を読み終えました。
この小説は、北欧スウェーデンのミステリー作品です。
探偵レオ・カリングが難解な殺人事件に挑み、物語が進むにつれて次々と謎が解き明かされていくテンポの良い展開が魅力的です。
スミルノ博士の知恵も借りながら少しずつ謎に迫っていきますが、
果たして真実はどのような結末を迎えるのか……。
さっそくレビューしていきたいと思います。
著者と書籍情報
【著者サミュエル・アウグスト・ドゥーセ紹介】
著者:Samuel August Duse
出身:スウェーデンのストックホルム
生まれ:1873年8月2日〜1933年2月9日(享年59歳)
【経歴】
- 父の望みに従い軍人になる
- 地図制作者としての才能を認められる
- 1901年から3年かけて南極探検隊に参加
- 戻ってきた1903年に『ペンギンとアザラシの間に スウェーデン探検隊の思い出』(未訳)を上梓
- 画家としても評価される
【ドゥーセの推理小説】
ドゥーセの推理小説にはすべて探偵レオ・カリングが登場する。
【1917年スウェーデンで出版】
原題:『Doktor Smirnos Dagbok』
著者:Samuel August Duse
言語:スウェーデン語で出版
【1922年ドイツで翻訳出版】
原題:『Das Tagebuch des Doktor Smirno』
言語:ドイツ語訳
【1963年日本で翻訳出版】
大正12年に雑誌『新青年』に小酒井不木博士翻訳で連載される。
その後宇野利泰さんが同じ原本を翻訳し、東京書房の『世界推理小説体系5』に収録。(言語はドイツ語版から日本語翻訳)
【2024年7月文庫化】
『世界推理小説体系5』に収録されている、宇野利泰さんが翻訳した『スミルノ博士の日記』を基にして文庫化される。
発 行:2024年7月
出版社:中央公論新社
ページ数:333ページ
『スミルノ博士の日記』簡単あらすじ
細菌学者で天才法医学者でもあるスミルノ博士は、ある晩、女優のアスタ・ドゥール殺害事件に巻き込まれる。
容疑者として、かつての恋人スティナが警察に連行される。
スティナが犯人だとはとうてい信じられないスミルノ博士は、名探偵レオ・カリングとともに不可解な謎に挑んでくのだが・・・・
事件の謎を解く鍵は
- 時計の時刻の謎
- スミルノ博士の日記
この辺りが最も難関であり、最大のミステリーとなっている。
探偵と博士の天才コンビ
【探偵レオ・カリングのキャラクター】
- 頭脳明晰で理知的
- どんな小さな手がかりも見逃さない
- 冷静沈着に事件の真相を解き明かしていく
と、凄まじく優秀。
カリングの解決してきた数々の事件を「1冊の本にしたい」と熱望する者さえ出てくる。
経歴で言うと
弁護士→→私立探偵
【スミルノ博士のキャラクター】
- スエーデンでの天才的人物
- 細菌学で有名な学者
- 法医学としても有名な学者
こちらも、負けず劣らず超優秀。
ただ、天才ゆえか裏の顔もある。
それは
- 秘密の憎しみを抱えている
- だが決して人を恨むことはしない
- 自分のことを孤独な人間だと思っている
そして、
何よりも特徴的なところは、自分のことを
「貧困に耐えられない人間」
と、自己分析している。
極端なまでにお金のない生活を恐れ嫌っている。
それが天才スミルノ博士の少し意外な人間的一面でもあります。
仮面舞踏会
物語が動き出すきっかけとなるのは、
<ナチオナール>という仮面舞踏会での出来事。
仮面をつけているので、 舞踏会にいたのかいなかったのか、証明は難しい。
だが、ある人物は、この日の仮面舞踏会を千載一遇のチャンスと捉える。
そしてついに、その人物の計画が実行に移される。
感想
この小説を読み終えて、私が感じたのは、
不名誉な過去を、完全に消し去ろうとする偏執的な思考の危険性・・・です。
自らを滅ぼしていく原因は、やはり『強すぎる執着』にあるように思います。
物質にも人にも、良いことや悪いことにも、あまりにも強い思いを抱きすぎると、最終的には自分自身を追い詰めてしまう。
そのような心理の動きを、この小説から強く感じ取りました。
まとめとおすすめの方
『スミルノ博士の日記』は
1917年に発表されたクラシックな探偵小説です。
この時代の探偵小説に共通するのは、
頭脳明晰な探偵が物語の中心となり、読者と共に謎解きを楽しむ・・・というあたりでしょうか。
例えば
- アガサ・クリスティのエルキュール・ポアロ
- アーサー・コナン・ドイルのシャーロック・ホームズ
など、探偵の個性やその独自の手法が物語の大きな魅力となっています。
今回のサミュエル・アウグスト・ドゥーセの小説でも、探偵レオ・カリングの冷静沈着な推理力が輝いており、彼の行動と判断に目が離せません。
また、
現代のミステリーと比べると、この時代の作品は全体的にペースがゆっくりで、細かい証拠や推理の過程に多くの時間を費やします。
そして、手紙や電話といったアナログな証拠が多く登場し、それらが重要な鍵となっていくのです。
今の時代のようにテクノロジーを駆使したスピード感のある展開とは異なり、1900年代の探偵は人間の観察力や会話、証拠の積み重ねが多く登場しましす。
このじっくりと進む謎解きの過程もまた、古典探偵小説の醍醐味の一つです。
読者である私たちも、登場人物たちの発言や行動の一つ一つに注意を払いながら、彼らの背後に隠された真実を探り続けることになります。
そういった読み応えのある展開が、この作品の魅力だと思います。
こんな方におすすめ
クラシックなミステリーが好きな方
人間観察や心理描写が好きな方
北欧ミステリーの世界をどうぞお楽しみください。
本国スウェーデンでは、作家としてより画家として著名だったそうで、特に南極の氷山を描いた絵は最高傑作だったそうです。