緻密に練られた15年の結晶『カササギ殺人事件』の感想

アンソニー・ホロヴィッツの『カササギ殺人事件』を、やっと読むことができました。

以前から気になっていたものの、上下2巻というボリュームに少し躊躇してしまい、なかなか手をつけられずにいました。

同じくらい分厚くても、一冊で完結していればすんなり読む気になるのですが、上下巻だとついつい後回しにしてしまいがちで…。

(こういった心理ってなんなんでしょうね)

ですが、最新作『死はすぐそばに』の翻訳が出たこともあり、なるべく古い順に作品を読破していきたいという思いから、これ以上先延ばしにはできないと感じ、ようやく手を伸ばしました。

英語版のハードカバーは496ページで、1冊にまとまっているようですが、翻訳版では上下巻に分かれていますね。

その理由も納得できます。

それはおそらく、最大の仕掛けである ‘book within a book’ を意図して分けられているからなのでしょう。

それでは、この素晴らしいミステリのレビューを始めたいと思います。

著者情報

アンソニー・ホロヴィッツ

生年月日: 1955年4月5日
出身地: イギリス、ロンドン
ミステリー作家として世界的に有名で、『シャーロック・ホームズ』や『ジェームズ・ボンド』の公式続編も手掛けている

【シャーロック・ホームズの続編】

  • 『絹の家』The House of Silk (2011)
  • 『モリアーティ』Moriarty (2014)

シャーロック・ホームズを主人公としたオリジナル続編小説です。アーサー・コナン・ドイルの作風を忠実に再現しながら、新たなミステリーを展開させています。

作品情報

TitleMagpie Murders』

By Anthony Horowitz

Release Date: June 6, 2017

Magpie/マグパイ」は日本語で「カササギ」です。
カササギは、カラス科に属する鳥で、特に白と黒の特徴的な羽を持ち、賢いことで知られています。イギリスやヨーロッパではよく見かける鳥で、文化的にもさまざまな迷信や象徴的な意味がある鳥です。

他にも、カササギは鳴き声が多く賑やかに騒ぐことから「おしゃべりな人」、キラキラしたものを好んで集める習性があることから「収集家」や「何でも興味を持つ人」を表す比喩として使われることがあります。

カササギ

邦題: 『カササギ殺人事件』

著者名: アンソニー・ホロヴィッツ
翻訳者:山田蘭

出版年: 2018年9月28日

出版社:東京創元社(創元推理文庫) 

ページ数:上巻 345ページ、下巻382ページ

【代表作】

『アレックス・ライダー』シリーズ、シャーロック・ホームズの続編『絹の家』など。

〈カササギ殺人事件の続編〉
『ヨルガオ殺人事件』2021

〈ホーソーン&ホロヴィッツ〉シリーズ
『メインテーマは殺人』2019
『その裁きは死』2020
『殺しへのライン』2022
『ナイフをひねれば』2023
『死はすぐそばに』2024

簡単あらすじ

<この小説の特徴>

アガサ・クリスティへの敬意を込めて描かれた珠玉のミステリ

上巻

(登場人物多め)

1995年7月、サマセット州のパイ屋敷で家政婦が謎の死を遂げる。

階段の下で倒れていた彼女の死は、事故なのかそれとも事件なのか。

小さな村の人間関係に影響を及ぼす中、余命わずかな名探偵アティカス・ピュントが真相に挑む。

下巻

(登場人物さらに増える)

<名探偵アティカス・ピュント>シリーズの最新作の原稿を結末まで読んだ編集者のスーザンは、その展開に激怒する。

「ミステリーを読んでいて、これほど腹立たしいことがある?」

その原因を突き止めようとするが、解明できず憤りは募るばかり。

そんな中、スーザンを待ち受けていたのは予想もしなかった事態だった

私にも、下巻1ページ目で予想もしなかった事態が待ち受けていました

カササギの象徴と迷信

【幸運と不運】
カササギは、ヨーロッパの多くの国で迷信と結びついており、特にイギリスでは「幸運」や「不運」をもたらすと考えられているようです。

この鳥が一羽だけ現れると不吉とされますが、複数羽が一緒にいる場合は逆に幸運を象徴するという説もあります。

これが由来となり、英語では次のような詩がよく知られています。

【意味】

一羽なら悲しみ、

二羽なら喜び。

三羽なら娘、

四羽なら息子。

五羽なら銀で、

六羽なら金。

七羽ならそれは、明かされたことのない秘密。

この詩はカササギを見かけた数によって意味が変わるという迷信を表しています。

上巻で、数羽のカササギが枝に並んでいました。さて、何羽並んでいたのか?数え唄と何か関係してくるのか?

【調和の象徴】

一方で、カササギは「バランス」や「調和」の象徴とされることもあります。

白と黒のコントラストのある羽毛が、光と闇、善と悪の二面性を表しているとも解釈されるからです。

登場するカササギは、単なる鳥ではなく「幸運」と「不運」の両面を持つ象徴として描かれているように思います。

ますますミステリに深みを与えてくれる鳥ですね。

book within a bookとしての魅力

Book within a Book(本の中の本)とは>

小説や物語の中に別の本が登場し、その本が物語の重要な要素として機能することを指します。

つまり、登場人物が本を読んだり、物語の中に組み込まれた本が、ストーリーに大きな影響を与えてくるのです。

この構成を「入れ子式」とも言いますね。


作品の二重構造(作中作のミステリーと現実の事件)がその二面性を、曖昧ながらも巧みに絡めていく点が、この『カササギ殺人事件』の物語の魅力の一つでしょう。

読み終えた後には、もう一度本を手に取って、仕掛けの数々を再確認する楽しみが広がります。

感想まとめ

『カササギ殺人事件』を一言で表すなら「二つの世界が絶妙にリンクしていく物語」だと感じました。

巻末には、この小説の構想が浮かんでから執筆に至るまで15年もの年月がかかったと紹介されており、その時間が作品全体に反映されています。

巧妙に張り巡らされた伏線が、最後には見事に収束していく様子は圧巻です。

長編なので少し躊躇するかもしれませんが、読み始めればその精巧さと圧倒的な満足感に引き込まれることは間違いありません。

私もようやくこの1作品をクリアし、次はどの作品を読もうかと楽しみです。

これを機に、アンソニー・ホロヴィッツのミステリーワールドをもっと堪能していきたいと思います。

thank you