読書感想『ザ・メイデンズ』ギリシャ悲劇の殺人は神話と現代が交差するミステリー

ザ・メイデンズ

アレックス・マイクリーディーズの『メイデンズ/ギリシャ悲劇の殺人』を読みました。

この物語はプロローグでいきなり「犯人」を名指しするところから始まります。

主人公の強い怒りといらだちが伝わってくるのですが、いったい何が起きたのか・・・。

神話というだけで興味がわく私ですが、ミステリーと組み合わされると一層惹きつけられます。

この作品を通じて感じたことや考察を以下にまとめてみました。

あらすじ

主人公のマリアナは、ロンドンでグループセラピストの仕事をしている心理療法士

1年前に夫を亡くし、その悲しみから立ち直れず、なんとかその喪失を受け入れようとフロイトの本を全て読み返す日々を送っていた。

そんなある日、ケンブリッジにいる姪のゾーイから電話がかかってきて「殺されたのは私の親友かもしれない」「亡くなる前に変なことを言っていた」・・・などと告げられる。

マリアナはすぐに支度をしてケンブリッジに向かう。

調査をしていく中で、ギリシャ悲劇専門のエドワード・フォスカ教授が犯人だと疑うが、決定的な証拠がない。

やがてさらなる犠牲者が出てマリアナ自身の身にも危険が迫ってくる。

簡単解説

  • 連続殺人事件:物語の中心となるミステリー。複数の女子学生が殺害される。
  • マリアナ:夫の死の悲しみを抱えつつ、事件の真相を追求する心理療法士。
  • 夫セバスチャンの死:マリアナの感情的な背景とトラウマ。彼の死がマリアナの行動の動機となる。
  • 姪のゾーイ:マリアナの姪で、事件に巻き込まれつつも学業に励む。
  • エドワード・フォスカ教授:事件の主要な容疑者。カリスマ的な古典学教授で、メイデンズに強い影響力を持つ。
  • 「メイデンズ」:フォスカ教授の指導下にある女子学生グループ。事件の被害者が含まれる。

「Maidens/メイデンズ」とは

「Maiden」とギリシャ神話の関係は、ギリシャ神話に登場する乙女(maiden/メイデン)たちが象徴する純潔や美徳、そしてそれにまつわる物語に深く結びついています。

以下にいくつかの具体例を示します。

ギリシャ神話の乙女たち

  1. アテナ
    • アテナは知恵と戦略の女神であり、純潔の象徴とされています。彼女は「パルテノス」(乙女)としても知られ、その名はアテネのパルテノン神殿に由来しています。
  2. アルテミス
    • 狩猟と自然の女神であるアルテミスもまた、純潔を守る乙女として崇められています。彼女は結婚を拒否し、永遠の処女であることを誓いました。
  3. ペルセポネ
    • ペルセポネは農業の女神デメテルの娘であり、ハデスによって冥界に連れ去られる前は、乙女として知られていました。この物語は四季の変化を説明する神話としても有名です。

「The Maidens」との関連

アレックス・マイクリーディーズの『メイデンズ』では、これらのギリシャ神話の乙女たちが象徴する純潔や犠牲、そして秘密のテーマが物語の核となっています。

「メイデンズ」という女子学生グループは、これらの神話的要素を反映しており、古代の象徴と現代のミステリーが交錯する物語を作り上げています。

ザ・メイデンズ

そして、小説が進むにつれて、このグループの中には多くの秘密と暗い面が隠されていることが明らかになっていく・・・。

このように、『メイデンズ』とギリシャ神話の乙女たちの関係は、古代の象徴と現代のテーマが巧妙に組み合わされている点でとても謎深いものです。

ケンブリッジ大学の雰囲気

ケンブリッジ大学という伝統的カレッジ制、かつ学問の中心地が舞台となっている点も、物語に深みを与えています。

例えば

  • 各校に必ず寮と食堂と礼拝堂がある
  • 四角い中庭(コート)の造りが修道院を思わせる
  • 大学の間を流れる「ケム川」がある

中世的な雰囲気が、ますますミステリー色を深めていきます。

キャラクターの魅力

主人公マリアナ

【トラウマと内面の葛藤を抱えている】

夫の死を背負った複雑な過去を持つ心理療法士。心理療法士でありながら、夫のことをいつまでも忘れられずうつ病のような状態。夫を失ったことで深いトラウマを抱えており、その痛みが自分自身の行動や判断に影響を与えます。

マリアナの内面の葛藤は、物語全体を通じて重要なテーマとなっています。

エドワード・フォスカ教授

【カリスマ的な魅力を持つ人物】

ギリシャの悲劇や神話に関する深い知識を持っていて、彼の博識ぶりは学生たちにとっても憧れの対象。

特に「メイデンズ」と呼ばれる女子学生グループに対する影響力が際立っています。彼の指導のもとで彼女たちは古代ギリシャの悲劇を学び、その影響が事件の背景にあることが示唆されています。

著者紹介

アレックス・マイクリーディーズ(Alex Michaelides)は、キプロス出身のイギリスの小説家および脚本家です。

著者は心理スリラーのジャンルで知られており、その作品は世界中で広く読まれています。以下に、彼の経歴や作品について詳しく説明します。

経歴

  • 生まれ:1977年
  • 出身地:キプロス
  • 父はギリシャ系キプロス人、母はイギリス人
  • 18歳までキプロスで育つ
  • 学歴:ケンブリッジ大学で英文学を専攻。その後、心理療法士の仕事に興味を持ち、関連施設でアルバイトをしながら本格的に勉強をする

代表作と次回作

  1. 『The Silent Patient』邦題『サイコセラピスト』
    • 発表年:2019年
    • 概要:心理療法士が、夫を殺したとされる女性患者の沈黙の理由を解明しようとする物語。この作品は発売直後にベストセラーとなり、世界的な成功を収めました。
  2. 『The Maidens』
    • 発表年:2021年
    • 概要:ケンブリッジ大学を舞台にした連続殺人事件を追う心理スリラー。古代ギリシャの悲劇や大学生活の裏側が絡み合い、緊張感のあるストーリーが展開されます。

そして3作目に当たる次回作が

『The Fury』 (2024)

概要:ギリシャのエーゲ海沿岸の町を舞台に、憎悪がなんらかの形で表面化し、48時間の間に死人が出る・・・というストーリー。

まだ翻訳されていないので発表が待ち遠しい1冊です。

まとめ

『ザ・メイデンズ』は、著者のアレックス・マイクリーディーズがキプロスの出身ということもあり、ふんだんにギリシャ神話やギリシャ文字でのメッセージなどが出てきて、中世にタイムスリップしたような感覚にもなります。

また、夏の別荘地としてナクソス島も出てくるので、旅した気分になれるのも魅力的です。

ギリシヤ神話に興味がある方、ミステリー好きには特におすすめの1冊です。

thank you