感想|俯瞰する楽しさ『ポケミス読者よ信ずるなかれ』の型破りな魅力

DANN McDORMAN(ダン・マクドーマン)のデビュー作『ポケミス読者よ信ずるなかれ』を読み終えました。

この作品は、単なる推理小説に留まらず、読者である「あなた」に直接語りかけながら進むことで、物語に強く引き込んでいきます。

伝統的なミステリーを超え、メタフィクションの要素が巧みに織り込まれており、物語が進むにつれて、主人公の探偵だけでなく、読者自身もまた真相を追い求める役割を果たします。

ダン・マクドーマンの深いミステリー知識と、そのジャンルに対する新しいアプローチを読むことで、これまでにない独特な読後感を味わうことができました。

メタフィクションとは?】

メタフィクションとは、物語の中で「これはフィクションである」と自覚的に扱う手法です。

通常の小説では、物語が現実のように進行しますが、メタフィクションでは、登場人物が自分が物語の中にいると認識したり、作者やナレーターが読者に直接語りかけたりすることで、フィクションそのものを意識させます。

このメタフィクションにより、読者は物語の構造や現実との関係を深く考えさせられ、単なるストーリー以上の知的体験ができます。

簡単あらすじ

1976年、アメリカ独立記念日の週末。

私立探偵マカニスは、人里離れた高級ハンティングクラブ「West Heart Club」に招待されます。

しかし、嵐でクラブは孤立し、次々と殺人が発生。物語は「誰が犯人か?」という問いを投げかけながら、読者自身に真相を探らせるように展開していく・・・。

原題は『West Heart Kill』

『West Heart Kill』という原題は、物語の舞台「West Heart Club」とそこで発生する連続殺人を象徴しています。

一方、邦題「ポケミス信者よ信ずるなかれ」は、従来のミステリーファンに対して挑戦的なメッセージを投げかけ、作品が古典的な推理小説の枠を超えることを強調しています。

原題が事件そのものに焦点を当てるのに対し、邦題は読者への挑戦を意味している・・・といった感じですね。

原題:West Heart Kill

著者:DANN McDORMAN

発表:2023年

邦題:ポケミス読者よ信ずるなかれ

訳者:田村義進(たむらよしのぶ)

発売日:2024年4月

出版社:早川書房

ページ数:374ページ

「ポケミス」とは

「ポケミス」とは、

早川書房が発行する推理小説シリーズ「ハヤカワ・ポケット・ミステリ」の略称です。

海外のミステリー作品を中心に紹介されていて、特に英米のクラシックな探偵小説や現代の推理小説が取り扱われています。

持ち運びやすいサイズと独特なデザインが特徴で、多くのミステリーファンに愛されているシリーズです。

独特な面白さがある

途中からは犯人を追うよりも、ミステリの「定義」や「定義づけ」を読むのが楽しくなってきました。

なんというか物語を上から眺め、俯瞰して読んでいくという感覚です。

さらに、アガサ・クリスティーやS・Sヴァン・ダイン、ジャコモ・プッチーニ、エドガー・アラン・ポーなどの手法も独自解説されており、それらを一緒に考察して行くような体験は、とても興味深く、独特な読書体験となりました。

こんな方におすすめ

ポケミス信者よ信ずるなかれ』は

ミステリーファンだけでなく、物語の構造に興味があるかたにも楽しめる一冊です。

型にはまらない独自のストーリー展開を味わいたい方にぴったりの作品で、読者を新たな視点から物語に引き込むような仕掛けが満載ですよ。

thank you