イギリス人作家クリス・ウィタカーの『われら闇より天を見る』を読みました。
この物語は、家族の絆や過去の傷について考えさせられる、感動と洞察をもたらす作品です。
テーマは、愛、犠牲、永遠の後悔、そして最後に希望・・・でしょうか。
過去を超え、希望を見つけるために、彼らは終わりから始める。
罪と贖罪、家族の絆や友情の複雑さを浮き彫りにし、登場人物たちの内面に光を当てた深いドラマとなっています。
主な登場人物
- ダッチェス:主人公の少女
- ロビン:ダッチェスの弟
- ハル :ダッチェスの祖父
- スター:ダッチェスの母親
- ウォーク:町の警察署長
- ヴィンセント:刑務所帰りの男
- マーサ:弁護士
悲劇のきっかけ|過去の傷と罪
物語は、30年前にヴィンセントという若者がシシーという少女を殺めてしまった事故から始まります。
この事故は、町の人々に衝撃と悲しみをもたらし、シシーの家族、特に姉であるスターの人生を大きく変えていくことになります。
シシーとスターは姉妹。ヴィンセントはスターの恋人。
この件でヴィンセントは逮捕され、長期の刑務所生活を送ることとなる。
そして30年後
スターは13歳の娘ダッチェスと5歳の息子ロビンと3人で暮らしていました。
スターはシシーの死により今でも心に傷を抱えたまま生きているので、常に精神が不安定。
子供もちゃんと育てられず、お酒の飲み過ぎや男の人のことで問題を起こすこともしばしば・・・。
こういう環境なので、家のことも弟の面倒もすべて娘のダッチェスがやることになる。
大人びてしまったダッチェスは13歳にして、ほかの同級生の人生を、
「めまいがするほどお気楽な人生」と吐き捨てます。
そう、ダッチェスの生きる原動力は、怒り
とはいえ、自分の家族・・・
飲んだくれの母のことも弟ロビンのこともとても愛しているダッチェス。
特に弟を世話する時のダッチェスはとても穏やかで優しいお姉さん。
ただ小さな町ゆえ、母の噂はすぐに広まり、同級生にしょちゅうからかわれてしまう。
だからダッチェスはそれに負けないよう口が荒く、同級生ともすぐに問題を起こすようになる。
そしてそれは子供同士のケンカにとどまらず、大人ともやり合ってしまい、
ついには取り返しのつかないことをしでかしてしまう。
怒りに火がつくと止まらなくなるダッチェス
本当は優しい子なのにと思うと胸が痛くなる。
私は無法者。
ダッチェスは自分のことを無法者と自称する。
そんな中、ついに30年の刑期を終えたヴィンセントが町に帰ってくる。
感情的なジレンマと人間の複雑さに焦点が当たる
ここからは、過去と未来に向き合う新たなドラマが始まります。
そして住む場所も変わり、今まで一度も会ったことがないというダッチェスの祖父ハルが登場します。
ダッチェスは13歳にもなるのに、祖父と一度も会ったことがありませんでした。
守られることとはどういうことなのかを知らずに生きてきたダッチェスは、祖父に心を許すことはありません。
むしろ今まで会いに来なかったことを恨んでるくらいです。
一方、今まで守られて生きてきた弟ロビンは、祖父にすぐに打ち解けます。
そんなロビンを見つめながら、ダッチェスは心で思います。
人間を形づくるものは何か・・・それは心に刻み込まれる記憶や出来事なのだと。
ロビンにはわたしのような辛い記憶を持たせたくない。
これからもずっと、幸せでいてほしい。
さいごに
この物語はヴィンセントが帰ってきてからは、サスペンス的で、秘密や複雑な人間関係が明らかになる過程に緊張感が高まりました。
ずっと緊張が続くのですが、ドリーというおばさまが登場するシーンだけはクスッと笑えてほっとしました。私もこんなおばさまになりたいなと。
この本は家族や友情の絆を考えたいかたにおすすめの一冊です。
それではまた。
タイトル:『われら闇より天を見る』
原 題:WE BEGIN AT THE END(2020)
著 者:Chris Whitaker
訳 者:鈴木 恵
出版社:早川書房
単行本:518ページ
初 版:2022年8月20日
本作品で英国推理作家協会賞最優秀超篇賞・ゴールド・ダガー受賞