アンソニー・ホロヴィッツのホーソーン&ホロヴィッツシリーズ。
1作目『メインテーマは殺人』
2作目『その裁きは死』
3作目『殺しへのライン』
今回読んだのは、第4作目となる『ナイフをひねれば』です。

これまでは、ホロヴィッツが探偵ホーソーンの活躍を記録する語り手の立場でしたが、今回はなんと、本人が殺人事件の容疑者にされてしまうという異色の展開に。
そして今作では、天敵のカーサ・グランショー警部が『その裁きは死』に続いて再登場。
ホロヴィッツに対するカーサの強い敵意が、今回も物語にスリルを与えています。
では今回は、この第4弾『ナイフをひねれば』について、印象に残った点を中心に感想を述べてみたいと思います。
邦題:『ナイフをひねれば』
著者:アンソニー・ホロヴィッツ
翻訳:山田 蘭
出版社:東京創元社(創元推理文庫)
翻訳版出版日:2023年9月8日
ページ:450ページ
Original Title: 『The Twist of a Knife』
Author: Anthony Horowitz
Publication Year: 2022
Country: United Kingdom
Genre: Mystery
もくじ
簡単あらすじ

作家アンソニー・ホロヴィッツは、自身が脚本を手がけた舞台の公演期間中に起きた劇評家殺人事件の容疑者として逮捕されてしまう。
関係者たちの証言は次第に彼に不利な方向へ向かい、追い詰められていくホロヴィッツ。
果たして探偵ホーソーンは、この難解な事件の真相を解き明かすことができるのか。
「ナイフをひねれば」ってどういう意味?

ホーソーン&ホロヴィッツシリーズでは、毎回タイトルがふたりの会話の中から生まれてくるのが特徴の一つでもあります。
今回のタイトルは『ナイフをひねれば』
原題は The Twist of a Knife
巻末の解説によると、このタイトルにはtwist(ひねる)とknife(ナイフ)が絶妙に組み合わさっていて、まさに「さすがホロヴィッツ」と思わせる仕掛けがあるそうです。
というのも、英語の慣用句で「twist the knife」という表現があり、
「傷口に塩を塗る」
「古傷をえぐる」
「嫌なことを思い出させる」
といった意味を持っていて、
ただナイフを刺すだけでなく、「さらにそれをひねる」ことで悪意や痛みを強調する言葉なんだとか。
実際、物語の中には凶器としてのナイフも登場します。
そう考えると、このタイトルには物理的な「殺人」と心理的な「攻撃」の両方の意味が重ねられていると読めそうですね。
容疑者ホロヴィッツの受難

これまで語り手だったホロヴィッツが、まさかの容疑者に。
身に覚えのない罪を着せられ、関係者の証言が少しずつ彼を追い詰めていきます。
どれも「決定的な嘘」ではないけれど、ちょっとした印象操作が積み重なることで、人は簡単に疑われてしまう。
ある日突然、自分もこんな目に遭うかもしれないと思うと、他人事とは思えなくなってきて・・。
まるでその現象が目の前で起きているかのようで、読んでいて胃がキュッとしました。
デフレクション|責任を誰かに向けたくなる心

一番印象に残ったのは、「デフレクション(責任逃れ)」という言葉です。
関係者たちが自分たちの立場を守るために、ホロヴィッツに不利なことを言ってしまう場面。
それは明らかな嘘ではなく、ほんの少し角度を変えたような言葉たちで、結果的に、ホロヴィッツはどんどん追い詰められていきます。
自分や誰かを守るための言葉が、気づかないうちに別の誰かを追い詰めてしまう。
「デフレクション」という心の動きは、案外、私たちのすぐそばにあるのかもしれません。
ホーソーンの読書会

私が特に楽しみにしているのが、ホーソーンの読書会の課題本です。
今回は『偉大なるギャツビー』
原題はF. Scott Fitzgeraldの『The Great Gatsby』
邦題にはいくつかバリエーションがあり、
- 『華麗なるギャツビー』
- 『偉大なるギャツビー』
といったように、訳者や出版社によってタイトルが違っているようです。
ホーソーンの読書のひとコマを、今回もこっそり楽しみにしていたのですが、その場面はタイトル紹介にとどまった感じでした。
これまで彼の読書スタイルや、意外なひと言がひそかな楽しみだっただけに、もう少し描いてくれたらうれしかったな……と、ちょっぴり欲が出てしまいました。
信じてくれる人が、ひとりでもいることのありがたさ

普段は何を考えているのか、いまひとつつかめない相手でも、どこかしらに絆を感じる人っていると思うんです。ホーソーンとホロヴィッツの関係も、まさにそう。
こういうとき、信頼って言葉で語られるものではなく、行動のなかに静かににじむものなんだな、と感じさせられます。
とはいえホーソーンは、そう簡単に気持ちを表に出すタイプではなく、
時に誤解を招くような言動もあって・・。
それでもなお、どこかに「にじむ信頼」のようなものがあって、それがかえって印象に残りました。
今回は、
人間の心の揺れ
守りたいもののために誰かを差し出してしまう弱さ
そんな、どこか身に覚えのあるような感情に触れさせてくれる一冊だったように思います。
まとめ
『ナイフをひねれば(The Twist of a Knife)』は
他人の証言ひとつで人生が大きく揺らいでしまうかもしれない、
そんな怖さとともに、信頼や絆の大切さ、人間の弱さを描いた、じんわりと心に残る一冊でした。


毎回日本文化の何かが登場するので、それもお楽しみに!