永嶋恵美著『檜垣澤家の炎上』は、明治末期から大正時代の横濱(横浜)を舞台に、富豪一族の愛憎と謎を描いた重厚なミステリーです。
表紙に描かれた緑色の洋館と、凛とした袴姿の女性、その美しいデザインに思わず目を奪われました。
さらに帯には『細雪』×『華麗なる一族』×殺人事件という魅惑的なコピーが!
富と権力、そして謎が絡み合う雰囲気に惹かれ、「これは面白そう」と思わず手に取ってしまいました。
物語では、一族を揺るがす事件と、主人公・高木かな子の成長を追うストーリーが展開され、横濱の歴史と人間関係が交錯する魅力に満ちています。
今回は、この作品の感想と見どころをご紹介します!
本の概要
著者と出版情報
著者:永嶋恵美
出版社:新潮社から文庫として出版
発行日:2024年7月29日
ページ数:790ページ
物語の舞台とテーマ
明治末期から大正時代の横濱を舞台に、檜垣澤家を中心とした愛憎劇と謎。家族内での陰謀や不審死事件が展開されます。
主人公の紹介
妾腹(しょうふく)の娘として生まれた高木かな子が母の死後に檜垣澤家に引き取られ、家族の中で地位を築こうと奮闘する姿を描きます。(妾腹とはお妾さんの子どものこと)
主人公かな子とその一族
物語を読んで感じた魅力や印象を具体的なエピソードをお伝えします。
かな子の成長と奮闘
母の死後、7歳で檜垣澤家に引き取られたかな子。
妾腹(しょうふく)の娘として冷遇されるかと思いきや、母から教わった「生き抜く知恵」を武器に、驚くほどの適応力を発揮します。その教えを胸に、かな子は権力が渦巻く一族の中で、自分の居場所を見つけていく。
女系で支配される檜垣澤家において、持ち前の賢さで他の一族に負けない存在感を示していく姿は、とても印象的です。
一族の愛憎が交錯
檜垣澤家の長老である祖母は、家の内でも外でも「女傑」として一目置かれる存在。財と権力を守るため、計算高く立ち回り、一族を統率しています。
一方で、叔母や姉様たちは、それぞれの利益を巡り、水面下で暗闘を繰り広げていく。
表面上は穏やかに見える一族の関係も、その裏では愛憎が複雑に絡み合い、やがてミステリーの核心へとつながっていくところが、この物語の最大の魅力でしょう。
横濱の急成長を遂げた商人たちの文化
横濱の急成長を遂げた商人たちの文化
横濱の商人たちが栄えた背景には、欧州で養蚕業が病虫害の影響を受け、大打撃を受けていたことがあります。その隙間を突く形で、生糸や綿織物の輸出が成功し、多くの商人が輸出業に参入しました。
この活気ある様子を「雨後の筍」と表現しているのが印象的で、横濱の繁栄が目に浮かぶようです。
ですが、全ての貿易商が成功し続けたわけではなく、御維新(ごいっしん)の後には数えるほどしか残らなかったといいます。
その中で生き残り、さらに繁栄したのが檜垣澤商店。
先見の明と卓越した経営手腕がうかがえます。
檜垣澤家の住む洋館
檜垣澤家の洋館
物語に登場する檜垣澤家の洋館は、山手の坂の頂上に建つ豪邸で、外国から輸入された調度品が揃い、その豪華さが横濱で急成長を遂げた商人たちの文化を象徴しています。
また、俥(人力車)や黒塗りの自動車が並び、着物から洋装へと人々の服装が変わりゆく様子、さらには家の中で靴を履いたまま過ごす生活スタイルなど、西洋文化が生活に浸透していく様子が丁寧に描かれており、とても興味深いです。
ミステリー要素
一族内の不審死
一族内で突然の死が起きる事件は、物語の大きな転換点となります。かな子がその死の背景を探る中で、少しずつ真実に近づいていく展開には緊迫感が漂い、物語に引き込まれます。
秘密が次々と明らかになるサスペンス
どれほど長老が統治していたとしても、避けられないのが財産を巡る嫉妬や争い。
一族の財産を巡る暗闘や、それに絡む過去の事件が次第に明らかになる展開は、読者を物語の深みに引き込む巧みな構成になっています。
ですが、この物語は単なる財産争いに終始するわけではありません。
物語のラストには、運命が導いたかのような儚さとともに、新たな希望を感じさせる余韻が残ります。
読了後、軽く再読のおすすめ
本作は800ページにも及ぶ長編で、最初にどのような会話が交わされたのか、何がキーワードだったのかを忘れてしまうことがあります。
しっかりと味わいたかったため、読了後に軽く再読してみると、伏線や細かな描写に気づき、『なるほど』と改めてその構成の巧みさに気づかされました。
一代で築き上げた富と権力
贅を尽くした豪奢な生活
西洋と和が融合した横濱の街並み
どれも魅力的な題材で、物語の世界に引き込まれ、最後まで存分に楽しむことができました。
まとめ
『檜垣澤家の炎上』は、家族の愛憎と陰謀、時代背景が交錯する重厚なミステリーでした。
横濱を舞台にした一族の物語は、複雑な人間関係や謎解きの楽しさに満ちています。
ぜひ手に取ってみてください!