読書感想『花と夢』チベット発|古都ラサで生きる女性たちの物語

花と夢

チベット長編小説『花と夢』を読みました。

『me tog dang rmi lam/Flowers and Dreams/花与梦』

ストーリーの舞台はチベット自治区の区都「ラサ」

そこにやむを得ぬ事情で集まってきた4人の少女たちが、支え合って生きていく物語。

花と夢って、とても美しいタイトルですよね。

ですが、少女たちに巻き起こるやむを得ぬ事情はとても重く、ささやかな夢でさえ、とても手の届かぬ位置にあるかのように感じます。

本作品の冒頭に、

作中には、性暴力およびハラスメントの直接的な描写が含まれます。フラッシュバックなどの恐れのある方はご注意ください。

とありますので記しておきます。

作者:ツェリン・ヤンキー

1963年 中国チベット自治区シガツェ生まれ。

渡し船の船頭を営む家に生まれ、語りの上手い祖母に育てられる。

子どもの頃から祖母に民話や民謡、格言、ことわざなど教え込まれる。

1983年、ラサのチベット大学に在学中「チベット日報」に投稿した小説がデビュー作となる。

大学卒業後の職業は中学教師。

この「花と夢」は構想7年、初めての長編小説となる。

夫のタシ・パンデンも著名な作家で、お互いの作家活動を尊重し、仲良く暮らしているそうです。

2000年代のラサ

この時代は中国政府による西部大開発が推進され、社会構造が大きく崩れていく時代だったとのこと。

田舎の農村には年寄りや子どもたちが残り、大人や学校を卒業した子たちはラサの都市に出稼ぎに行くようになる。

そのためラサは人口が爆発的に増加、羽振のいいビジネスマンが集うナイトクラブもたくさんできてきた。

そのような状況のラサのナイトクラブでの出来事が、この物語の中心になっていきます。

花の名前のついた4人

  • 菜の花
  • プリムラ
  • ハナゴマ
  • ツツジ

花の名前はナイトクラブで働く時の源氏名です。

ストーリーはツツジ目線で進んでいきます。

それぞれの章では、

4人の生い立ちや家族、故郷、

そして、

なぜ遠いラサまで出稼ぎに来たのか、

なぜナイトクラブで働かざるを得なくなったのか、

なぜ4人の少女が結束しているのか、

など、まだ10代で世間のことなど何もわからない少女たちが、

ずるい大人たちにより深い闇に落とされていく様子がつづられていきます。

この世は輪廻世界

輪廻りんねとは、現世で酷い目にあっても、それは自分のせいではなく前世の悪業なので、そのカルマを受け入れるしかない・・・

というような思想。

受け入れて善い行いを積んでいくことで、来世は良くなる・・という教え。

人生はこの一度限りではない。

前世があり、現世、そして来世へと続いていくもの。

だからどんなに辛い目に遭っても、

来世のため、何をも恨まず徳を積みながら生きていきましょう。と。

弱い立場に生まれてしまったら、理不尽なことを数多く経験するかもしれません。

なぜ私がこんな目に・・・と考えることは、きっとなんの慰めにもならず、唯一希望をもたらしてくれるものは「輪廻転生のためにカルマを受け入れ徳を積む」という、この思想なのでしょう。

本文で度々出てくる彼女たちのセリフはこうです。

「わたしの業が深いせい」

「わたしの福徳が足りないせい」

このセリフが自然と出てくるのだから、もう十分に徳は積み上げています。

来世はきっと良いものである。

そう願いながら読了しました。