感想|アンソニー・ホロヴィッツ『殺しへのライン』ロンドンを離れ、事件は孤島へ

A LINE TO KILL

ホーソーン&ホロヴィッツ・シリーズ3作目の『殺しへのライン』

1作目『メインテーマは殺人』、2作目『その裁きは死』と読んできて、やっと3作目を手に取ることができました。 

でも、今回のストーリーはこれまでとはちょっと違う雰囲気?

 舞台はイギリスのチャンネル諸島・オルダニー島。
 アクセスが限られた島で事件が起こる、クローズド・サークルのミステリ

いつものホーソーン&ホロヴィッツのコンビが、今回は閉ざされた舞台でどんな謎に挑むのか?

さっそく感想を書いていきます。

邦題:『殺しへのライン』
著者:アンソニー・ホロヴィッツ
翻訳:山田 蘭
出版社:東京創元社(創元推理文庫)
翻訳版発売日:2022年9月9日
ページ:456ページ

Title: 『A Line to Kill』
Author: Anthony Horowitz
Publication Year: 2021
Country of Publication: United Kingdom
Genre: Mystery

著者紹介|アンソニー・ホロヴィッツ

アンソニー・ホロヴィッツ/Anthony Horowitz

・1955年、イギリスのロンドン生まれ
・現代ミステリ界を代表する作家のひとり

コナン・ドイル財団公認のホームズの正統続編『シャーロック・ホームズ 絹の家』やアガサ・クリスティへのオマージュ作『カササギ殺人事件』では『このミステリーがすごい!』本屋大賞翻訳小説部門で1位に輝く。

ホーソーン&ホロヴィッツ・シリーズ

本シリーズでは、作中に「アンソニー・ホロヴィッツ自身」が登場し、元刑事ダニエル・ホーソーンが関わる事件を記録していく、というユニークなスタイルが取られています。

簡単あらすじ

作家のアンソニー・ホロヴィッツと元刑事のダニエル・ホーソーンは、作家イベントのためにイギリスのチャンネル諸島・オルダニー島を訪れる。

ところが、パーティーの最中に殺人事件が発生。二人は再び事件の捜査に巻き込まれることになる。

原題『A LINE TO KILL』について

A LINE TO KILL

ホーソーンシリーズでは、タイトルの由来が作中に描かれることが多いですが、今回も例外ではありません。『A LINE TO KILL』という言葉が、会話の中でしっかりと登場します。

では、この「Line」という単語はどのような意味で使われているのでしょう?

  • 物理的な線を指すのか?
  • 境界や制限といった象徴的な意味なのか?
  • それとも別のニュアンスが込められているのか?

こうしたことを考えながら読むと、物語の流れがより楽しめるかもしれませんね。

Channel Islands|チャンネル諸島の紹介

今回の見どころは、作家ホロヴィッツと元刑事ホーソーンのコンビが、ロンドンを飛び出し、チャンネル諸島のひとつ、オルダニー島へ向かうところでしょう。

決して「仲良く旅行」…というわけではなく、文学フェスティバルのゲストとして島に招かれるのですが、いつもと違うパターンに期待がふくらみます。

今回訪れたチャンネル諸島 (Channel Islands)とは?

  • イギリス海峡に浮かぶ諸島
  • イングランド南部からは約100kmほど
  • フランスのノルマンディー地方のすぐ近く
  • フランスの海岸から約20km

特徴

  • イギリス王室属領 (Crown Dependencies) に属す
  • イギリスの一部だが本国には含まれない
  • 独自の政府・法律・税制 を持つ
  • イギリスとフランスの影響が混ざり合った独特の雰囲気がある
  • イギリスポンドを基準にした独自通貨を使用

チャンネル諸島の主要な島

  • ジャージー島 (Jersey) – 約118 km²(最大)
  • ガーンジー島 (Guernsey) – 約65 km²
  • オルダニー島 (Alderney) – 約8 km²
  • サーク島 (Sark) – 約5 km²
  • ヘルメ島 (Herm) – 約2 km²

これら5つの島と付属の島嶼からなる

今回の舞台オルダニー島とは?

  • 小さくて孤立した島
  • 第二次世界大戦の歴史がある
A LINE TO KILL

オルダニー島は、チャンネル諸島の中では比較的小さな島で住民は約2,000人ほど。観光地というより、静かでのどかな雰囲気のある場所なんだそう。

ただし、歴史的な背景として、ナチス・ドイツによる占領を受けた歴史あり。

第二次世界大戦時、チャンネル諸島全体がナチス・ドイツに占領され、オルダニー島は特に要塞化されました。ナチスの強制収容所が建設され、犠牲者も多く出たため、歴史的に重い背景を持つ島でもあります。

著者ホロヴィッツがオルダニー島を選んだ理由を考えてみる

A LINE TO KILL

風光明媚ながらも、どこか閉鎖的な雰囲気のあるオルダニー島。


いうまでもなく、クローズド・サークル(外部と遮断された状況で起こる密室型ミステリ)の舞台として最適だったことは確かでしょう。

なんといっても、

  • 交通手段が限られる
  • 島に閉じ込められる

といった条件が揃い「閉ざされた空間でのミステリ」が自然と出来上がるわけですから、島はうってつけです。

しかも、ホロヴィッツが選んだのは、チャンネル諸島で一番発展している大きな島……ではなく、3番目のオルダニー島。


程よい大きさで、程よく閉鎖的。

だからこそ、ミステリ向きの舞台になっていますよね。

A LINE TO KILL

さらに、オルダニー島にはナチス占領の歴史があり、その影を感じさせる雰囲気も物語に合っています。


実際、チャンネル諸島では文学フェスティバルが開催されることもあり、そうした小規模で独立した場所という特性も生かされています。

ホロヴィッツは「島という閉鎖空間 × 小規模なコミュニティ × 歴史的背景」を組み合わせて、オルダニー島を舞台に選んだのかもしれませんね。

人はどうして殺人者となってしまうのか

A LINE TO KILL

今回『殺しへのライン』を読んで感じたテーマは、

「人はどうして殺人者となってしまうのか」 ということ。

どうしても許せない出来事が起こり、恨みを抱いたとしても、多くの人は行動に移すわけではありません。むしろ、忘れようとしたり、気持ちを整理しようとしたりするでしょう。

けれど、

運命のようにいくつもの要因が重なり、思いがけず実行に移す「チャンス」が訪れてしまったとしたら?

 その瞬間、理性ではなく感情が支配し、後戻りできない衝動に駆られることもあるのかもしれません。

だからこそ「どうして殺人者となってしまうのか?」という自問には、答えが出てきません。 

それは怒りや恨みだけではなく、環境や偶然、ほんの小さな選択の積み重ねによって、人は想像もしなかった道へと進んでしまうから。

本作は、そんな人間の危うさを鋭く描いているように感じました。

ホーソーンの読書会用の選書

このシリーズでひそかに楽しみにしているのが、ホーソーンが読書会で選ぶ本。

今回は、サラ・ウォーターズの『エアーズ家の没落』でした。

ホーソーンの読書スタイルは「一冊をじっくりゆっくり読む」こと。まるで登場人物の心理を深く観察するように、丁寧にページをめくる姿が目に浮かびます。

だからこそ、ホーソーンの選書には毎回どこか意味があるように感じてしまいます。

まとめ

シリーズとしての魅力はそのままに、新たな試みが加わった『殺しへのライン』。

いつもとは違うホーソーン&ホロヴィッツの活躍を楽しめる一冊でした。

シリーズファンはもちろん、クローズド・サークル・ミステリーが好きな人にもおすすめの作品です!

thank you