感想|『恐怖を失った男』(Fearless)ポーシリーズとは一味違う、アメリカが舞台のサスペンス

M・W・クレイブンの『恐怖を失った男』(原題:FEARLESSを読みました。

表紙の男性はかなりワイルドですね。

まるで恐怖を失った人間が持つ独特の怖さを映し出しているようです。

これまで親しんできたワシントン・ポーシリーズとは舞台も主人公もガラリと変わり、今回はアメリカが舞台。

けれど緻密な調査に裏打ちされたクレイブンらしさは健在で、読んでいるとまるで映画を観ているような臨場感に包まれました。

ポーシリーズのファンとしては、クレイブン作と聞くだけで、つい自動的に読みたくなってしまいます。

それではここから感想を綴っていこうと思います。

タイトル:『恐怖を失った男』
著者:M・W・クレイブン
翻訳:山中朝晶(やまなか ともあき)
出版社:早川書房
発行日:2024年6月10日
ページ数:703ページ

Title: Fearless
Author: M. W. Craven
Country of Publication: United Kingdom
Year of Publication: 2023
Genre: Crime fiction / Thriller

簡単あらすじ

主人公ベン・ケーニグは、かつてアメリカ連邦保安官局の特別部隊に所属していた男。

ある出来事をきっかけに「恐怖を感じることができない」という特殊な状態を抱えることに。

そんな彼のもとに、かつての上司から「娘が行方不明になった」という知らせが届きます。

救出するため再び危険な世界に足を踏み入れることになったベンは、恐怖を知らぬまま、アメリカの闇に深く潜り込んでいく・・・。

原題『 Fearless』 の意味

原題の Fearless は、
英語で「恐れを知らない」「恐怖を感じない」という意味があります。

fear(恐れ、恐怖) + -less(〜がない)

直訳すると 「恐怖がない」「恐れを知らない」 という意味になります。

単に「勇敢」というよりも、危険やリスクを前にしても「怖い」という感情そのものが欠けているニュアンスです。

小説のタイトル Fearless では、「恐怖を感じない男」=「恐怖を失った男」という主人公の特性を端的に表していますね。

恐怖を失った主人公の視点が生むスリル

今回特に印象的だったのは、事件そのもののスリルよりも、主人公ベンの恐怖を失ったという特異な視点。

普通なら心臓が凍りつくような場面でも、彼は冷静に対処していきます。

その落ち着きぶりに、むしろ敵の方が「なぜ動じないのか?」と不思議に感じるほど。

そしてその異様な空気感が、読者にとっては逆にハラハラする緊張感となって伝わってきました。

チワワ砂漠|Chihuahuan Desert

物語の舞台のひとつに登場するのが、

アメリカとメキシコにまたがる
広大なチワワ砂漠(英語名:Chihuahuan Desert)

名前からはちょっと意外ですが、ここは世界最大級の砂漠地帯のひとつ。

乾いた大地にサボテンやユッカが点在し、荒涼とした景色が広がる一方で、ときには緑や花が一斉に咲き、砂漠のイメージを塗り替えてくれます。

さらに、ニシダイヤガラガラヘビクビワトカゲといった生き物も生息しており、小説の中にも登場します。

主人公のベンと共に、本当に砂漠をさまよっているような臨場感を味わえるのが、この作品の魅力です。

そして面白いポイントとして、犬の「チワワ」もこの地方が原産。

小型犬のチワワも実はこの砂漠にルーツがあるそうですよ。

著者紹介

著者:M・W・クレイブン

M. W. Craven

イギリス・カンブリア州出身の犯罪小説作家

長年、保護観察官として働いた経験を持ち、その実務に基づいた知識と緻密な調査をもとに、本格的な犯罪小説を数多く執筆しています。

代表作は、人気シリーズとなっている「ワシントン・ポー」シリーズ。

  • ストーンサークルの殺人
  • ブラックサマーの殺人
  • キュレーターの殺人
  • グレイラットの殺人
  • ボタニストの殺人

『ストーンサークルの殺人』で2019年英国推理作家協会(CWA)最優秀新人賞を受賞し、その後も同協会のゴールド・ダガー賞などを獲得。

リアルな捜査描写と重厚なストーリーテリングで、多くの読者を魅了しています。

まとめ

クレイブン作品に共通する徹底したリアリティが、今回も存分に楽しめました。

舞台が変わっても、やっぱり骨太な本格犯罪小説。

ワシントン・ポーシリーズのファンはもちろん、新しい主人公ベンの物語としても十分に魅力的でした。

分厚さを忘れるほど、ぐいぐい読ませてくれる作品です!

thank you