ジョン・ディクスン・カーの推理小説『皇帝のかぎ煙草入れ』を読みました。
この作品はカー名義の長編23作目。
代表的なキャラクターである
フェル博士(Dr. Gideon Fell)
ヘンリー・メリヴェール卿(Sir Henry Merrivale)
アンリ・バンコラン (Henri Bencolin)
は登場せず、
本書だけに出てくるキャラクター
イギリスの精神科医ダーモット・キンロスが探偵役として活躍します。
キンロスが密室のトリックをどう解いていくのか、最後の最後まで真相が明かされない巧妙なトリックでした。
もくじ
皇帝のかぎ煙草入れの基本情報
原題:『The Emperor’s Snuff-Box』
著者:John Dickson Carr
訳者:駒月 雅子
邦題:『皇帝のかぎ煙草入れ』
作者:ジョン・ディクスン・カー
出版社:東京創元社
発売日:2012年5月20日
ページ数: 318ページ
1942年アメリカのハーパー&ブラザーズ社、
1943年イギリスのヘイミッシ・ハミルトン社から刊行。
ジョン・ディクスン・カーの概要
- 生年月日: 1906年11月30日
- 没年月日: 1977年2月27日
- 出身地: アメリカ合衆国、ペンシルベニア州ユニオンタウン
- 職業: 小説家、推理作家
- 別名義: カーター・ディクスン(Carter Dickson)
作風と特徴
ディクスン・カーは密室殺人の名手
- 密室殺人を扱った作品で特に有名です。彼の作品では、完全に閉ざされた部屋の中で犯行が行われ、どうやって犯人が出入りしたのかが謎となる「不可能犯罪」が多く描かれます。
あらすじと主要キャラクター
夫と離婚したイヴはフランスの避暑地に暮らしていた。
離婚を噂されるのが嫌で人を避けて暮らしていたが、そこで新たに出会ったトビイに惹かれ婚約する。
婚約後トビイの父が殺害され、その容疑をかけられてしまったイヴ。
イブのことを快く思っていないメイドの不利な証言や状況証拠などで、絶体絶命の窮地に陥ってしまう。
警部の助っ人でやってきたイギリスの精神科医キンロスが、この密室トリックを解いていくのだが・・・。
タイトルにある「皇帝のかぎ煙草入れ」とはどんなもの?
まず、
皇帝とはナポレオンのこと。
かぎ煙草とは粉末状にしたタバコの葉のことで、鼻先に持っていって吸い込むようです。
そしてその容器のことをかぎ煙草入れという。
本書に出てくるかぎ煙草入れはナポレオンの愛用品で、見た目は懐中時計。
かぎ煙草入れはさまざまな意匠のものが作られ、由緒あるものは骨董品として珍重されてきたようですよ。
印象的なシーンと引用
ミステリーの犯人・・・
それは必ず登場人物のうちの誰かが犯人なのだけど、誘導が上手すぎて「あれ、もしかしてAが犯人?」「え?Bなの?」「待てよ、これはひっかけだ」など、二転三転考えが変わりましたよ。
楽しく騙されました。
不思議だな・・と思ったのは「家の鍵」
不思議というか防犯的に「それは危ないのでは?」と、現代だったらまずありえないなあと。当時のフランスの、しかも避暑地だったらアリだったのでしょうか。
普通にしていても悪い方向へ向かっていく
生きていると、悪いことに巻き込まれてしまうことってありますよね。
イヴもそのことに関してこう述べています。
特にこれといった理由もないのにすべてがまずい方向へ転がる日というのが必ずある。
P72
呪わしい星まわりで立て続けにひどい目に遭うと定められているなら、なぜこうなったかを考えてみたってしかたないわ。もう起きてしまったのだから。
P73
必要以上に落ち込まず、どうやったらいいのかという方向へ舵を切ります。
悪い運気を跳ね飛ばすには、思考をどんどん回転させていかないと、深い泥沼に引きずり込まれるばかりです。
密室とアイテム
印象に残るアイテムは3つ。
- 皇帝のかぎ煙草入れ
- 鍵
- 茶色い手袋
茶色い手袋は密室と関係が深く謎めいています。
いったい誰が茶色い手袋をはめていたのか?
トリックを見破る鍵は、会話の中に詰まっています。
というか、会話の中にしかありません。
疑問を持ったセリフをどう繋げていくかで、早期に犯人の目星をつけられるかもしれません。
私は最後まで騙されましたけども。
密室トリックと鮮やかな謎解きが見どころの作品
『皇帝のかぎ煙草入れ』は恋愛の要素も入っており、イヴの未来が気になります。
ジョン・ディクスン・カーは、推理小説の歴史において重要な位置を占める作家であり、今もなお、多くの読者に読み継がれています。
密室トリックや怪奇的な要素に興味がある方は、ぜひ手に取ってみることをお勧めします。