今回読んだのは、クリスティン・ペリンの『白薔薇殺人事件』(原題 How to Solve Your Own Murder)です。

タイトルからしてクラシックな雰囲気が漂っていて、ストーリーは犯人当て(フーダニット)の伝統的なミステリ。
特徴的なポイントは、
①登場人物が限られていて、犯人候補が分かりやすい
②何気ないやり取りにヒントが隠されている
フーダニットは「真相が明かされる前に犯人を当てられるか」が楽しみの核心ですね。
私も読みながら「この人が怪しいかも」と思っていたのですが、ラストでは見事に裏切られました。
しかも、なぜ事件が起きたのかという理由にはそうせざるを得なかったと感じさせるものがあり、単純に「許せない」とも「やむを得なかった」とも言い切れず、揺れる心を残してくれました。
ではここから、読後に残った気持ちを少し振り返ってみたいと思います。
タイトル:『白薔薇殺人事件』
著 者:クリスティン・ペリン
翻 訳:上條ひろみ
出版社:東京創元社(創元推理文庫)
発行日:2024年7月12日
文 庫:480ページ
Title: How to Solve Your Own Murder
Author: Kristen Perrin
Publication Date: 2024
Author’s Origin: United States (Seattle, Washington)
Publication Country: United Kingdom
Genre: Mystery / Whodunit
簡単あらすじ

主人公は、ミステリ作家を夢見る少女アニー。
ある日、大叔母に招かれてキャッスルノール村を訪れるが、到着したときには大叔母はすでに図書室で亡くなっていた。
そのとき床には数本の白薔薇が落ちていた。
大叔母は16歳のときに占い師から「いつかお前は殺される」という予言を受け、それを信じ続けたまま60年を過ごしてきた。
そして予言が現実となる日を恐れ、あらかじめ親族や村人たちを綿密に調べ、その記録を残していた。
アニーは大叔母が残した調査記録を手がかりに、死の真相を解き明かそうと犯人探しに挑んでいく。
占い(予言)を信じ続けた60年間

大叔母が占い師から不吉な予言を受けたのは16歳の時でした。
怖い言葉ほど、人はどうしても信じてしまうことがありますよね。
でも、それを60年ものあいだ心に抱え続けたというのは、どこか危うさも感じさせます。
そんな精神状態で過ごしていれば、疑心暗鬼にとらわれ、周囲から「少し変わった人」と見られてしまうこともあったでしょう。
友人たちに「そんな予言、でたらめよ」と言われても、大叔母はどうしても受け流すことができず、むしろ自分からその予言を手放そうとはしなかったのです。
何事も「信じすぎる」「考えすぎる」「愛しすぎる」「親しすぎる」「気遣いすぎる」・・・
そうした“すぎる”気持ちが、ときに望まない出来事を引き寄せてしまうのかもしれません。
そして、その強すぎる思いがつくり出す空気は、いつしか周りの人々にまで伝染していく。
そんなことを考えながら、この物語を読み進めていました。
「誰も部屋の中の象の話をしない」とは?

『白薔薇殺人事件』の中に、「誰も部屋の中の象の話をしない」というセリフが出てきます。
これは英語の慣用句 elephant in the roomというもの。
直訳「部屋の中にいる象」
比喩的意味「誰もが存在に気づいているのに、あえて触れない不都合な真実」
小説の文脈では、登場人物たちが「誰もが気づいているはずの違和感や秘密」にあえて触れずにいる場面でこの表現が使われています。
つまり、「なぜ誰もこの話題をしないの? まるで部屋の中に象がいるのに、全員が気づかないふりをしているみたい」というニュアンスです。
謎や真相に近い部分を示し、読者に「まだ語られていない何かがありそうだな」と思わせるための、仕掛けのような慣用句なのでしょう。
こういう仕掛けこそがミステリの面白さなんだと思います。
著者クリスティン・ペリン紹介
クリスティン・ペリン
Kristen Perrin は アメリカ・ワシントン州シアトル出身。
シアトルで数年間書店員として働いた後、大学院進学のためにイギリスへ移住し、修士号・博士号を取得する。
現在は、イギリス・サリー州(ロンドンの南に位置する、自然豊かな地域)で夫と二人の子どもと暮らしている。
本作は著者クリスティン・ペリンの長編デビュー作であり、発表と同時に多くの読者や批評家から注目を集めました。
まとめ
『白薔薇殺人事件』は、占いに縛られた大叔母の死をきっかけに、少女アニーが犯人探しに挑む本格ミステリ。

限られた容疑者、巧みに散りばめられた伏線、そして誰もが気づいていながら語られない核心が、読者を最後まで引き込みます。

デビュー作ながら、王道と意外性を兼ね備えた一冊でした!