もともと古代エジプトの世界には不思議と惹かれるものがありました。
ピラミッドやミイラ、そして「死者の書」に描かれた冥界の旅。
そんなエジプトの神秘と、ミステリがどう交わるのか気になって、手に取ったのが白川尚史さんの『ファラオの密室』です。

想像していたよりもずっと深く、そして静かに心を揺さぶられる一冊でした。
ではさっそく、読後の感想をつづってみたいと思います。
2024年に第22回『このミステリーがすごい!』大賞を受賞作品
タイトル:『ファラオの密室』
著 者:白川尚史
発行日:2024年1月23日
出版社:宝島社
ページ数:312ページ
簡単あらすじ
古代エジプトの上級神官書記・セティが主人公。
セティは半年前に王墓の崩落事故で命を落としてしまう。
だがある事件の謎を解くために、3日間だけ“この世”に戻ってくることに・・・。
舞台はピラミッド、消えたミイラ、封じられた秘密。
ファンタジーのようでいて、しっかり「ミステリ」しています。
古代エジプトの世界観

古代エジプトでは、死は終わりではなく別の世界への移行と考えられていました。
生きているあいだの行いは、死後の審判で問われ、
魂が再び生きる世界(来世)へ進むことが理想とされていたのです。
この世界観のもと、人々は多くの神々を信仰し、
神とともに生きること=正しい生き方とされました。
ラー神 vs アテン神 とは?
古代エジプトでは、太陽の神ラーを中心とした多神教が人々の生活を支えてきました。
太陽の神ラーとは
- 太陽の神で古代エジプトの伝統的な信仰の中心
- 毎日太陽を昇らせる神であり王の守護神
- 多くの神官団がこの信仰を支え強い力を持っていた
アテン神とは
一時期、第18王朝の王・アクエンアテン(アメンホテプ4世)が唯一神として強引に広めました。
- アテン以外の神々を否定
- 初の一神教的な宗教改革を断行
その急な変化は周囲との対立を招き、やがて元の信仰に戻ることに。
『ファラオの密室』でも、この信仰の断絶と継承のゆらぎが、物語の鍵を握っています。
歴史×ミステリーの融合

しっかりした史実の土台の上に、ミステリが見事に築かれています。
「死者の書」や「カノプス壺」など、エジプト好きにはたまらない用語も自然に出てきますよ。
死者が探偵という異色の構図
死者は自分の心臓が欠けているため「審判」が受けられません。
そこで欠けた部分を取り戻すため地上へ調査に行くことを許される。
だけど与えられた時間はたったの3日間。
生と死、真実と虚構のあいだで揺れる死者セティ。
霊的な制約、神々の審判といった要素が物語に深みを与えています。
ミイラ職人

『ファラオの密室』では、
ミイラ作りに携わる職人たちが誇り高い専門職として描かれています。
彼らはただ遺体を保存するのではなく、死者が無事に来世へ向かえるように、神聖な役割を担う存在として登場します。
実際の歴史では、ミイラ職人は死体に触れることから、社会の中で敬遠された側面もあったようです。
ですが本作では、
そうした偏見を乗り越えて、信仰と技術に裏打ちされたプロフェッショナルな姿が印象的に描かれています。
彼らの手によって進められるミイラ作りの工程には、宗教的な意味や死者への敬意が込められており、ただの「作業」ではないということが伝わってきます。
物語の中で、彼らの存在が命の終わりと再生をつなぐ重要な立ち位置にあるのが印象的でした。
読んで感じたこと

登場人物の名前は、もしかしたら覚えにくいと感じたり、混乱しやすい場面もあるかもしれません。
ただ、それを乗り超えると一気に引き込まれる設計になっています。
古代の宗教や政治の動きが、謎解きに深く関わっていて面白かったです。
まとめ
古代エジプトの世界が好きな方はもちろん、
ちょっと変わったミステリを読んでみたい方にもおすすめの一冊です。
歴史、神話、謎解きが静かに響き合い、最後には思わぬ種明かしが待っています。


『ファラオの密室』で、不思議な旅を味わってくださいね