15世紀のパリ、ノートル=ダム大聖堂。
そこで交錯するのは、愛と権力、そして抗えない宿命。
ヴィクトル・ユゴーの『ノートル=ダム・ド・パリ』
(原題:Notre-Dame de Paris)は、ただの恋愛小説ではなく、
美しさと醜さ、信仰と欲望、運命の理不尽さが交錯する 壮大な物語。

歴史が息づく大聖堂を舞台に、まったく異なる立場の人々が出会い、すれ違い、心が揺さぶられるドラマが繰り広げられます。
この作品が時代を超えて語り継がれるのはなぜなのか?
今回は、短縮版を読んで感じた魅力を中心に、『ノートル=ダム・ド・パリ』の世界を紹介していきます。
邦題:『ノートル=ダム・ド・パリ』
著者:ヴィクトル・ユゴー
翻訳:大友徳明
出版社:角川文庫
邦訳版発行日:2022年2月25日
ページ:236ページ
Original Title: Notre-Dame de Paris
Author: Victor Hugo
Publication Date: 1831
Country: France
Genre: Gothic Novel
もくじ
作者紹介:ヴィクトル・ユゴーとは?
ヴィクトル・ユゴー(Victor Hugo, 1802-1885)
ロマン主義(Romanticism) とは?
18世紀末から19世紀にかけて広まった芸術・文学・思想の潮流。感情や個人の想像力、自然、歴史、英雄的な人物像を重視した運動。
特に理性を重んじる啓蒙主義や古典主義に対抗し、情熱や直感、美、自由への憧れ を表現することが特徴とされています。

ヴィクトル・ユゴーといえば、『レ・ミゼラブル』を思い浮かべる方が多いかもしれません。
でもまた別の、壮大で魅力的な物語もあります。
それが『ノートル=ダム・ド・パリ』
中世のパリを舞台に、人々の運命の不思議さや厳しさが描かれたこの作品。ユゴーならではの緻密な描写やドラマチックな展開が随所にちりばめられています。
また、ユゴーは作家であると同時に、政治にも深く関わった人物。
- 自由主義を掲げフランス社会に影響を与えた
- ナポレオン3世のクーデターに反対し19年間の亡命生活を送る
まさに波瀾万丈な人生を歩んだ作家といえます。
主な登場人物

- カジモド:大聖堂の鐘つき男。耳が聞こえない。20歳。
- エスメラルダ:美しいジプシーの少女。16歳。
- クロード・フロロ:大聖堂の聖職者。36歳。
- フェビュス:騎士。エスメラルダが恋する相手。
- ジャリ:エスメラルダのヤギ。象徴的な役割を果たす。
簡単あらすじ

15世紀のパリ、ノートル=ダム大聖堂を舞台に、さまざまな人々の運命が交錯する。
ジプシーの少女エスメラルダは、その美しさゆえに多くの人の心を惹きつけるが、それがやがて彼女の運命を大きく変えていくことになる。
彼女を巡るのは
- 聖職者クロード・フロロ
- 騎士フェビュス
- 鐘つき男カジモド
「美」と「醜」、「愛」と「狂気」、そして「宿命」とは何か。
彼らを待ち受けるのは、救いか、それとも破滅か。抗えない運命に導かれる物語。
パリのノートル=ダム大聖堂について

この小説は『ノートル=ダム・ド・パリ』というタイトルが示す通り、物語の中心にはノートル=ダム大聖堂があります。
背景は15世紀のパリ。
大聖堂は単なる宗教施設ではなく、権力と社会の縮図ともいえる場所だったようです。
本作では、この壮麗な建築の中で繰り広げられる人間模様が、まるで運命の歯車のように交錯していきます。
ノートル=ダム大聖堂の概要
正式名称
カトリック・ノートル=ダム大聖堂
Cathédrale Notre-Dame de Paris
所在地
フランス・パリ(シテ島)
建設期間
1163年~1345年(182年)
建築様式
ゴシック建築
意味
「ノートル=ダム」はフランス語で「私たちの貴婦人」=聖母マリア のこと
目的
- パリの司教座聖堂をより壮大なものにするため
- 9世紀頃の旧聖堂が老朽化し、新たな聖堂の建設が必要だった
飛び梁などの革新的なゴシック建築技術を取り入れた、画期的な建築プロジェクトでした
特徴
- フランスを代表する大聖堂の一つでゴシック建築の傑作
- ステンドグラスのバラ窓(ロゼット)が有名
- 「フランス王の戴冠式」や「ナポレオンの皇帝戴冠式」が行われた
- ユゴーの小説『ノートル=ダム・ド・パリ』の舞台
歴史
12世紀:1163年にルイ7世の支援のもと、モーリス・ド・シュリー司教が起工
14世紀:1345年頃にほぼ完成。
19世紀:フランス革命で破壊されるがヴィクトル・ユゴーの『ノートル=ダム・ド・パリ』(1831年)の影響で再建が進む
2019年:大火災で屋根と尖塔が焼失(2026年までに修復完了を目指している)

フランス各地の「ノートル=ダム」
「ノートル=ダム」という名前の教会や聖堂は、パリ以外にもフランス各地にあります。
例えば
ノートル=ダム・ド・シャルトル大聖堂
Cathédrale Notre-Dame de Chartres
ノートル=ダム・ド・シャルトル
場所:シャルトル(Chartres)パリから南西へ約80km
特徴
・青みがかった美しいステンドグラス(シャルトル・ブルー)で有名
・世界遺産に登録されており、ゴシック建築の傑作
ノートル=ダム・ド・ルルド
Sanctuaire Notre-Dame de Lourdes
サンクチュエール・ノートル=ダム・ド・ルルド
場所:ルルド(Lourdes)南西部ピレネー山脈のふもと
特徴
・ルルドの泉で知られ病気の治癒を求める巡礼者が世界中から訪れる
・フランスで最も多くの巡礼者が訪れる聖地
ノートル=ダム・ド・ロカマドゥール
Sanctuaire Notre-Dame de Rocamadour
サンクチュエール・ノートル=ダム・ド・ロカマドゥール
場所:ロカマドゥール(Rocamadour)南西部カオール近郊
特徴
・黒い聖母像(Vierge Noire)が安置され多くの信仰を集める
・断崖絶壁に築かれた壮大な巡礼地
ノートル=ダム大聖堂(ルーアン)
Cathédrale Notre-Dame de Rouen
ノートル=ダム・ド・ルーアン
場所:ルーアン(Rouen)フランス北西部、ノルマンディー地方
特徴
・印象派画家クロード・モネが連作で描いたことで有名
・フランス・ゴシック建築の傑作で、繊細なファサードを持つ
・ジャンヌ・ダルクゆかりの地
ノートル=ダム大聖堂(アミアン)
Cathédrale Notre-Dame d’Amiens
ノートル=ダム・ダミアン
場所:アミアン(Amiens)フランス北部
特徴
・フランス最大のゴシック大聖堂
・内部の広大な空間と高い天井が特徴
・パリのノートル=ダムよりも規模が大きい

大聖堂の鐘の名前や数
もともと10個以上の鐘があったが、フランス革命(1789年)でほとんどが溶かされ大砲の材料とされた。2013年に9つの鐘が新たに鋳造され、現在は合計10個の鐘が設置されています。
ただし、1685年に鋳造された「エマニュエル」だけは破壊を免れ、17世紀から残っている貴重な鐘としてノートル=ダム大聖堂の象徴となっている。
【代表的な鐘】
- エマニュエル(Emmanuel)
1685年鋳造、重量約13トン!ノートル=ダム最大の鐘で特別な儀式の時にのみ鳴らされる。 - マリー(Marie)
2013年に新たに鋳造された鐘のひとつ、重量約6.2トン!ノートル=ダム大聖堂で2番目に大きな鐘で、エマニュエルとともに特別な機会に鳴らされる。
ユゴーは大聖堂を救った?
ヴィクトル・ユゴーの小説『ノートル=ダム・ド・パリ』(1831年)は、当時荒廃していたノートル=ダム大聖堂の保存・修復に大きな影響を与えたとされています。
作品のテーマ|宿命「ANÁΓKH」とは?
冒頭に、ギリシャ語で、『 ANÁΓKH(アナンケ)』という言葉が記されています。
その意味は?
- 『宿命』
- 「運命に抗えない人間の悲劇」を象徴する
作品全体を貫く「逃れられない運命の流れ」を示し、この言葉とともに、それぞれの登場人物の宿命が動き出します。
『ノートル=ダム・ド・パリ』はセンセーショナルな内容だった?

本書は建築や歴史を語るだけでなく、読者を夢中にさせる要素が詰まっています。
「悲劇的な愛の物語」
- 切ない愛は人気のテーマ
- 「報われない恋」「運命の非情さ」といった要素が感情を揺さぶる
スキャンダラスな展開
「聖職者=善人」というイメージを覆し偽善や権力の腐敗を描いた
『ノートル=ダム・ド・パリ』短縮版を読んで感じたこと

【短縮版の魅力】
- 読みやすく物語の核心がわかりやすい
- テンポがよく、長編よりも手軽に名作の世界を味わえる
- 1832年版のエッチング挿絵が贅沢
物語の核心がシンプルにまとめられていて、ユゴーの世界を手軽に楽しめるのがポイント。
特に、1832年版のエッチング挿絵が収録されているのは贅沢で、当時の雰囲気がダイレクトに伝わってきます。
ただ、長編では登場人物の心理描写がより深く掘り下げられているため、短縮版で作品を気に入った方は、ぜひ長編にチャレンジしてみるのもおすすめです。
逆に、長編を読んだことがある方が短縮版を手に取ると、ポイントが整理されていて、新たな視点で楽しめるかもしれません。

この作品は「権力の濫用」「歪んだ愛」「美しさの本質」など、さまざまなテーマが複雑に絡み合っています。
特に、「外面的な美」と「内面的な美」の対比は、
- カジモド
- エスメラルダ
- フロロ
- フェビュス
といったキャラクターを通じて強く描かれています。
醜い容姿と純粋な心
美しさと悲劇的な運命
知性と権力を持ちながらも道を踏み外していく姿
どれも印象に残りますが、私が最も心を打たれたのはカジモドの恩義と純粋な心。
心の美しさと醜さ
その対比が、苦しいほど胸に迫ってくる物語でした。
まとめ
『ノートル=ダム・ド・パリ』は、ただの恋愛小説ではなく、「逃れられない宿命」と「人間の運命」を描いた壮大な物語です。


短縮版は手軽に世界観を楽しみ、深く知りたくなったら長編に挑戦がおすすめです!