著者アンソニー・ホロヴィッツが自ら登場するユニークな設定と、クラシックミステリへのオマージュが魅力の『メインテーマは殺人』を読みました。
元刑事ホーソーンとの出会いのきっかけや、予測を裏切るストーリー展開に流石だなぁと思いながら読了しました。
この作品は、単なる推理小説にとどまらず、忘れることができない恨みや悔しさ、人間関係の複雑さを考えさせられる深い一冊です。
物語はロンドンを中心に進行しますが、イギリス国内の複数の地名が出てくるところも魅力的でした。では早速感想を書いていきたいと思います。
邦題:『メインテーマは殺人』
著者:アンソニー・ホロヴィッツ
訳者:山田 蘭
出版社:創元推理文庫/東京創元社
発行日:2019年9月28日
ページ数:432ページ
Original Title: 『The Word Is Murder』
Author: Anthony Horowitz
Publication Date: August 24, 2017
著者紹介
アンソニー・ホロヴィッツは、イギリスを代表する作家であり脚本家です。ミステリー小説やスパイ小説、さらにはテレビドラマの脚本で幅広く活躍しています。
Anthony Horowitz
アンソニー・ホロヴィッツ
1955年4月5日生まれ
イングランド、ミドルセックス州出身
この『メインテーマは殺人』は、著者ホロヴィッツが『絹の家 (The House of Silk)』を書き終えた後という時期設定で始まります。
【ミステリー小説】
ダニエル・ホーソーン・シリーズ
- 『メインテーマは殺人』(The Word Is Murder)
- 『その裁きは死』(The Sentence Is Death)
- 『殺しへのライン』(A Line to Kill)
- 『ナイフをひねれば』(The Twist of a Knife)
- 『死はすぐそばに』(Close to Death)
【シャーロック・ホームズ公式続編】
- 『絹の家』(The House of Silk)
- 『モリアーティ』(Moriarty)
アーサー・コナン・ドイル財団から認可を受け、シャーロック・ホームズシリーズの公式続編を書きました。
【ジェームズ・ボンド公式続編】
- 『トリガー・モーティス』(Trigger Mortis)
- 『永遠の一日』(Forever and a Day)
イアン・フレミング財団からの依頼を受け、ジェームズ・ボンドシリーズの新作を執筆。
簡単なあらすじ
ある日、資産家の老婦人が葬儀社を訪れ、自分の葬儀の手配を済ませて帰宅する。
しかしその夜、何者かによって絞殺されてしまう。果たして彼女は、自分が殺されることを予感していたのか?
この謎を解明するため、元刑事のホーソーンが捜査を開始する。
そして彼は、作家であるアンソニー・ホロヴィッツに「この事件を小説にしてみないか」と持ちかける。
こうしてホロヴィッツはホーソーンとともに事件に関わることになり、次第に複雑な真相へと迫っていく。
著者であるアンソニー・ホロヴィッツも登場するユニークな設定
【登場人物と設定の魅力】
『メインテーマは殺人』の最大の特徴は、著者であるアンソニー・ホロヴィッツ自身が登場人物(作家)として物語に加わり、元刑事ホーソーンとともに事件の捜査に関わるという斬新な設定です。
物語の中心となる「老婦人殺人事件」を捜査するホーソーンは、推理力と洞察力が超一流の元刑事。しかし、秘密主義で無愛想なため、人としては謎めいた人物でもあります。
そんなホーソーンの行動や性格が、ホロヴィッツの視点を通して徐々に明らかになり、事件の複雑な背景と絡み合っていく過程が、この小説の大きな魅力の一つだと私は感じました。
【表向きのテーマ vs 真の動機】
老婦人が殺害された事件の他に、もう1つの「事件」が浮上してきます。
でもそれはわかりやすく現れた表の事件と言っていいでしょう。
真の動機はそう簡単には現れません。その奥には、底知れない恨みの深淵が静かに息づいているのですから。
一つ進むとまた一つ・・・。真の恨みや復讐心が顔を覗かせ始めます。
そして、その代償は想像を超えた結末へと繋がっていきます。
【「事故」と「意図的な罪」】
『メインテーマは殺人』では、「事故」と「意図的な罪」が交錯し、人間関係や感情にどのような影響を与えるのかが描かれています。
ここでの「事故」とは避けられなかった偶然の悲劇を指し、「意図的な罪」は計画された復讐を意味します。
偶然の悲劇は、もしかするともう少し注意を払えば防げたかもしれません。一方で、計画された復讐には、法では裁けない憤りが爆発した結果という側面もあります。
偶然と計画、どちらの悲劇もそれぞれ異なる重みを持ちますが、この違いを考えることで、この読書は自分自身の行動や感情について、改めて思いを巡らせるきっかけとなりました。
タイトルについて
原題『The Word Is Murder』は、直訳すると「その言葉は殺人」という意味になります。「言葉」が「殺人」と結びつくことで、言葉がどれほど強力で影響力を持つかを暗示しているのでしょう。
作中のセリフで、どの言葉が事件の鍵となったのかを考えてみましたが、これはホーソーンの推理の中に巧妙に隠されています。
推理小説を読んでいて思うのは、重要な手がかりはすべて物語の中にあるということ。それは分かっていても、どう結びつけるかで結末が大きく変わるところが面白いですよね。
犯人が明らかになる直前まで、私は全く別の人物を疑っていました。そう簡単に当てさせてもらえないところが、推理小説の醍醐味ですよね。今回も見事に騙されながら、読書を楽しみました。
ちなみに、邦題が『メインテーマは殺人』になったきっかけは、作中のセリフにそのまま登場します。ぜひ探しながら読んでみてください。
感想まとめ
『メインテーマは殺人』は、ただ犯人を暴き出して終わるだけではなく、その背後にある動機や人間の心理、さらには「復讐による負の連鎖」についても考えさせてくれる物語です。
その他にも、アガサ・クリスティーやコナン・ドイルといったイギリスミステリー界の巨匠たちへの敬意も盛り込んである作品でした。
クラシックなミステリーを愛する方にも、新しい視点を楽しみたい方にも、ぜひ手に取ってほしい一冊です