ジョン・ディクスン・カーの『悪魔のひじの家』を読み終えました。
本作は、1998年の邦訳の改訳文庫版で、原著は1965年に発表された作品です。
カーは『密室殺人』や『不可能犯罪』の名手として知られ、この作品でもその才能が存分に発揮されています。
物語の舞台は古い屋敷の緑樹館。
裏でよからぬことを企んでいそうな登場人物たちや、超自然的な要素が巧みに織り込まれ、物語は謎解きを軸に進んでいきます。
今回は名探偵ギディオン・フェル(旧訳ではギデオン・フェルと表記)が活躍するシリーズです。
古典的なゴシックホラーの雰囲気を味わいながら、最後には論理的な推理が光る作品となっています。
それでは、ここからは私なりの感想を書いていきたいと思います。
もくじ
簡単あらすじ
舞台となる緑樹館は、偏屈だった前当主クローヴィス・バークリーの死後、ようやく落ち着きを取り戻していた。
しかし、そこに『新しい遺言状』という爆弾が投げ込まれる。
相続人は孫のニコラスに指定され、現当主ペニントンの立場が危うくなる。
ニコラスが館を訪れたその夜、ペニントンは二度も銃撃され重体に。
密室状態の中、犯人はどうやって脱出したのか?
奇怪な事件を好むフェル博士が、鋭い推理で真相を暴いていく。
バークリー家のメンバー
欧米では、地位を引き継ぐ際に名前も一緒に受け継ぐことがよくあり、この物語でも父親から息子へと名前が引き継がれています。
読み始めはどちらのニコラスなのか混乱しやすいので、ここで関係性を少し整理しておきます。
クローヴィス・バークリー(祖父)
│
├─ ニコラス(長男)
│ └─ ニコラス(息子・愛称はニック)
├─ ペニントン(次男)
└─ エステル(長女)
古い遺言状のままだったら問題は起きなかったのですが、新しい遺言状で、遺産が長男の息子ニックに引き継がれることが判明します。
長男はすでに亡くなっているため、次男は当然自分が遺産を受け継ぐと思い込んでおり、この結果に大きなショックを受けます。
その後、新しい遺言状を確認するために緑樹館に関係者が集まりますが、そんな中次男ペニントンが銃撃され重体に陥ります。
誰が撃ったのか?
そして、密室状態で犯人はどうやって逃げたのか?
この奇怪な事件に挑むのは、得意の推理で数々の謎を解明してきたフェル博士です。
「悪魔のひじ」は土地の名前
『悪魔のひじの家』に登場する「悪魔のひじ(Satan’s Elbow)とは、物語の舞台となる土地の名前です。
【悪魔のひじの特徴】
- イングランド南部、パンプシャー州とワイト島の間に位置する
- 深いソレント海峡沿岸に突き出した平地が「悪魔のひじ」と呼ばれる
- 名前の由来は定かではない
【悪魔のひじに建てられた緑樹館】
- 18世紀半ばに悪名高い判事が建てた屋敷
- 判事は非業の死を遂げる
- その後、バークリー家がこの屋敷を買い取って住むようになる
なんというか、この緑樹館は周囲から隔絶された場所にあって、不気味な雰囲気と怪しげな噂が絶えない設定なんですよね。
不気味な屋敷と人間の心理
『悪魔のひじの家』は、中心にあるのは殺人事件ではなく、殺人未遂事件です。
そのため、スリルやサスペンスよりも、謎解きや不気味な雰囲気に焦点が当てられています。
私の感想としては、この作品は「不気味な屋敷の謎」や「登場人物たちが抱える過去の秘密」が強調されている点が印象的でした。
「殺人」そのものより、「なぜこんな不可能なことが起こったのか?」という謎に興味がある読者に向いている作品だと感じます。
全体として、『悪魔のひじの家』は、スリルやサスペンスを楽しむというより、突然財産を手にした者や奪われた者の心理、そしてその周囲の人々の心理を描いたミステリーだと思いました。
著者紹介
【ジョン・ディクスン・カー紹介】
John Dickson Carr
1906年11月30日 – 1977年2月27日
アメリカのペンシルベニア州ユニオンタウン生まれ
1930年代にはイギリスに移住し多くの作品を書き上げる
「密室殺人」というジャンルを代表する作家の一人です
【本作紹介】
邦題:悪魔のひじの家
著者:ジョン・ディクスン・カー
訳者:白須清美
出版社:東京創元社
1998年の邦訳の改訳文庫版
発売日:2024年6月
ページ数:376ページ
原題:The House at Satan’s Elbow
著者:John Dickson Carr
発表:1965年
Dr. Gideon Fell|ギディオン・フェル博士シリーズ
ジョン・ディクスン・カーの作品のキャラクターにはアンリ・バンコランやギディオン・フェル博士(ギデオン・フェル)がいます。
『悪魔のひじの家』ではフェル博士が活躍します。
フェル博士は、大柄でユーモアのある名探偵で、超自然的な雰囲気が漂う事件を論理的に解決するスタイルが特徴です。
このフェル博士シリーズは、密室殺人や不可能犯罪の傑作が多く含まれています。
- フェル博士シリーズの代表作
- 帽子収集狂事件 (The Mad Hatter Mystery, 1933)
- 曲がった蝶番 (The Crooked Hinge, 1938)
- テニスコートの殺人 (The Problem of the Wire Cage, 1939)
- 緑のカプセルの謎 (The Problem of the Green Capsule, 1939)
- 盲目の理髪師 (The Blind Barber, 1934)
- 死者はよみがえる To Wake the Dead, 1937)
- 連続自殺事件 (The Case of the Constant Suicides, 1941)
こんな方におすすめ
『悪魔のひじの家』は、不気味な屋敷と謎めいた事件が絡み合い、最後には驚きの結末が待っています。
遺産相続や家族の確執、恋の駆け引きといった心理的な要素が巧みに描かれており、登場人物たちの心の動きを読み解く楽しさがあります。
クラシックな雰囲気の中、じっくりとフェル博士の謎解きを楽しみたい方におすすめの1冊です。