感想|『クレオパトラの短剣』エジプト神話と19世紀ニューヨークの社交界とミステリ

今回、キャロル・ローレンスの『クレオパトラの短剣』を読了しました。


序盤ではミステリだと思っていたのですが、読み進めるうちにその印象は大きく変わり、私の中では「歴史小説」に分類したくなる一冊 になりました。

舞台は1880年代のニューヨーク・マンハッタン。

そこに広がる世界は、ただの背景ではなく、まるで自分がタイムスリップしたかのようにリアルに描かれています。


街並み、交通、移民、社交界、貧富の差、警察の腐敗・・・。

19世紀のニューヨークがどのように形成され、どんな人々が暮らしていたのかを知るほどに、この街の歴史そのものに興味が湧いてくるほどでした。


実際の建物やストリート、さらには当時実在した有名な人物まで登場するので、これはもう「歴史書」と言ってもいいくらい。


そこで今回は、この作品の魅力を掘り下げてみようと思います。

キャロル・ローレンスが紡ぐ物語は、一体どんな世界なのか。感想を交えて、その魅力をご紹介します。

邦題:『クレオパトラの短剣』
著者:キャロル・ローレンス
翻訳:中山 宥(なかやまゆう)
出版社:早川書房(ポケミス)
邦訳版発行日:2024年10月20日
ページ:398ページ

Title: 『Cleopatra’s Dagger』
Author: Carole Lawrence
Publication Date: 2022

Carole Lawrenceについて

  • カナダ出身の作家
  • 現在はアメリカ・シカゴに在住
  • 詩人、作曲家、劇作家としても活動
  •  ニューヨーク大学で執筆の指導も行う
  • 代表作:刑事イアン・ハミルトンを主人公とするミステリ三部作

・『Edinburgh Twilight』
・『Edinburgh Dusk』
・『Edinburgh Midnight』

簡単あらすじ

1880年、エリザベスはニューヨーク・ヘラルド紙で唯一の女性記者として働いていた。

そんなある朝、血を抜かれた、まるでミイラのような遺体が発見される。

事件の調査を担当するため、エリザベスは自ら犯罪担当記者に志願する。

彼女の記事は大きな反響を呼ぶが、犯人は嘲笑うかのように次々と犯行を重ねていく――。

ニューヨークのはじまり|レナペ族からオランダ、そして今の街へ

主人公エリザベスの家系(バンデンブルック家)は、ニューヨーク最初のオランダ人入植者の血を引く家柄という設定です。物語をより楽しむために、オランダ人入植の歴史から簡単にご紹介します。

1600年代前半
マンハッタン島とレナペ族

ニューヨークは、もともとネイティブ・アメリカンのレナペ族が狩猟・漁業・農業をしながら自然と共に暮らしていた場所でした。

彼らはこの地を 「マンナハタ(Mannahatta)「丘の多い島」という意味」と呼んでいました。

この言葉がのちに マンハッタン(Manhattan)」 という地名の由来になったと言われています。

1609年
オランダ人がこの地を発見

イギリス人の航海士ヘンリー・ハドソン(Henry Hudson) が、オランダ東インド会社の依頼で探検を行い、現在のハドソン川 を発見しました。

オランダはこの地を毛皮交易の拠点にすることを決め入植を開始します。

1624年
オランダが正式に入植を開始

オランダは植民地「ニューネーデルラント(Nieuw Nederland)」を設立し本格的な開拓を進めました。

1626年
ニューアムステルダムの誕生

オランダ人総督 ピーター・ミヌイット(Peter Minuit)は、マンハッタン島を60ギルダー(現在の価値で約1000ドル)でレナペ族から購入したとされています。


こうして、マンハッタン島の町は
ニューアムステルダム(Nieuw Amsterdam)と名付けられました。

この 「ニューアムステルダム時代」 は約40年間続きます。

しかし、

1664年
イギリス軍がニューアムステルダムを占領

町の名前をニューヨーク(New York)」に改名。

「ニューヨーク」の「ヨーク」は、当時のイギリス王 チャールズ2世 の弟、ヨーク公ジェームズ(James, Duke of York) にちなんでつけられました。

オランダ人のその後

多くのオランダ人入植者は、そのままニューヨークに留まりイギリス統治下での生活を受け入れました。

土地の所有権は維持されたため、裕福なオランダ系の家系は地主として影響力を持ち続けることになります。

17世紀後半~18世紀にかけて、オランダ系住民は英語を話すようになりましたが、文化や家名は世代を超えて受け継がれました

主人公エリザベスの家系(バンデンブルック家)も、そうしたオランダ系の血を引く家柄の設定です。この時代のオランダ人入植者たちがモデルになったのでしょうね。

今も残るオランダ語の名残

オランダの支配は約40年間(1624〜1664年)という短い期間でしたが、今のニューヨークにもオランダ時代の名残が多く残っています。

  • ウォール・ストリート(Wall Street)
    → もともとオランダ人が町を守るために築いた「壁(Wall)」が由来。
  • ハーレム(Harlem)
    → オランダの都市「ハールレム(Haarlem)」にちなんで名付けられた。
  • ブロードウェイ(Broadway)
    → オランダ語で「広い道」を意味する「Breede Weg(ブレーデ・ウェフ)」が語源。
  • ブルックリン(Brooklyn)
    → オランダの町「Breukelen(ブレウケレン)」が由来。
  • コニーアイランド(Coney Island)
    → オランダ語で「ウサギの島(Konijn Eiland)」の意味。

今でもよく耳にする有名な地名ばかりですね。
オランダの影響は、現代のニューヨークにも息づいています。

19世紀のニューヨーク(マンハッタン)

『クレオパトラの短剣』の舞台となる1880年頃、マンハッタン島はさまざまな顔を持つ街でした。本書では、暮らしぶりや職業、食べ物に至るまで、貧富の差がとことん描かれています。

マンハッタンのエリアごとの特徴

ダウンタウン(南部)
→ オランダ植民地時代からの古い街並みが残る。
金融街(ウォール街)があり多くの移民が暮らすエリア。
→ 貧民街 ファイブ・ポインツ(Five Points)」も存在。

ミッドタウン(中央)
→ 五番街(Fifth Avenue)の発展により富裕層の住宅地に。
→ メトロポリタン美術館などの文化施設も誕生。

アップタウン(北部)
→ まだ開発が進んでいなかったが徐々に住宅地が広がる。
→ ハーレム地区も誕生。

この時代のマンハッタンは貧富の差が極端に激しく、社交界の富裕層と移民の労働者階級が 同じ街で暮らしていました

その様子は、マーティン・スコセッシ監督の映画 『ギャング・オブ・ニューヨーク』(2002年) でも描かれています。

馬車がメインの交通機関だった時代

『クレオパトラの短剣』では、リアルな交通事情も忠実に描かれています。物語の中で、何度も辻馬車が登場し活躍します。

「辻馬車(ハンサム・キャブ)

この時代のニューヨークでは辻馬車(ハンサム・キャブ)が主要な移動手段。
これは19世紀に使われていた馬車タクシー
主に 中流・上流階級の人々が利用していたそうです。

辻馬車・ハンサム・キャブ

「ハンサム・キャブ」という名前は、発明者ジョセフ・ハンサム(Joseph Hansom)に由来しています。

ですが、道は石畳でデコボコ、馬のフンも多く、決して快適とは言えない乗り物だったようです。

それでも、当時のニューヨークでは 馬車が主要な交通手段。
とはいえ、馬車に乗れるのはある程度の収入がある人だけ 。

貧困層の移民たちは、ほとんどの場合、徒歩での移動が当たり前だったようです。

『クレオパトラの短剣』では、そんな19世紀のニューヨークのリアルな交通事情 も忠実に描かれており、何度も辻馬車が登場し活躍します。

馬車が行き交う活気ある街の風景を想像しながら読むと、より物語に入り込めるかもしれませんね。

ニューヨークのスラム街、五つ辻とは

作中には、通称「五つ辻」という場所がたびたび登場します。そこは 貧困と人口過密に苦しみ「他から見捨てられた土地」として描かれています。

「五つ辻」とは?

ニューヨークのスラム街「ファイブ・ポインツ(Five Points)」のこと。
この地区は、5本の道が交わる交差点にちなんで名付けられました。

ファイブ・ポインツを構成していた5つの通り(当時と現在の名称)

当時の名称現在の名称
オレンジ通り(Orange Street)バクスター通り(Baxter Street)
アンソニー通り(Anthony Street)ワース通り(Worth Street)
クロス通り(Cross Street)パーク通り(Park Row)
リトル・ウォーター通り(Little Water Street)消滅
マルベリー通り(Mulberry Street)部分的に統合・現存

ファイブ・ポインツは特に貧しい移民たちが暮らすエリアとなり、環境は決して良いものではなかったようです。

道は馬のフンと泥だらけ、家はぎゅうぎゅう詰め、犯罪が日常茶飯事。
ギャング同士の抗争も絶えず、警察ですら手をつけられないほどだったとか。

一方で、このエリアはさまざまな文化が混ざり合う場所でもあり、後のニューヨークの活気ある街並みの基盤になったとも言われています。

今では名前も地図上から消えた「ファイブ・ポインツ」

現在ニューヨークには 「ファイブ・ポインツ」という名称や場所は公式には残っていません。

かつてこのエリアがあった場所は、

  • ニューヨーク市庁舎(City Hall)周辺
  • チャイナタウン
  • リトル・イタリーの一部

へと変わり、当時の面影はほとんどなくなっています。

「クレオパトラの針」と「メトロポリタン美術館」

第一の殺人は、「クレオパトラの針」というオベリスクのもとで起こります。

クレオパトラの針(Cleopatra’s Needle)とは、1880年にエジプトのカイロからニューヨークへ運ばれたオベリスク(記念碑)のことです。

クレオパトラの針
クレオパトラの針

実はこのオベリスク、クレオパトラとは直接関係がなく、古代エジプト第18王朝(約紀元前1450年)に建てられたもの。


それがなぜ「クレオパトラの針」と呼ばれるようになったのかは、のちの時代にオベリスクがクレオパトラの時代に再利用されたり、クレオパトラのイメージと結びついたことが理由のようです。

メトロポリタン美術館も登場

メトロポリタン美術館(The Metropolitan Museum of Art, MET)は、1870年に設立され、1872年に開館。1880年に現在のセントラルパーク東側(5番街82丁目)に移転。

メトロポリタン美術館
メトロポリタン美術館

「クレオパトラの針」がニューヨークにやってきた時期と、メトロポリタン美術館(The Metropolitan Museum of Art)が発展していた時期は重なっています。

このオベリスクは、1880年7月にニューヨークに到着し、1881年2月にセントラルパークのグレート・ローン東側に設置されました。

そして、メトロポリタン美術館は、1870年に設立され、1880年に現在のセントラルパーク沿いに移転。


つまり、オベリスクがニューヨークに到着したのと、美術館が今の場所に落ち着いたのは、ちょうど同じ頃でした。

当時のニューヨークは「文化と芸術の都」を目指していたため、エジプトの貴重な遺物を迎え入れることは、世界的な文化都市としての象徴となったようです。

まとめると

項目内容
メトロポリタン美術館の設立1870年設立(開館は1872年)、1880年に現在の場所へ移転
オベリスクの建造時代紀元前1450年(トトメス3世による建設)
なぜ「クレオパトラの針」なのか19世紀の探検家や学者たちがロマンチックな響きを持つ名前をつけた可能性がある
エジプトが送った理由スエズ運河建設に協力した欧米諸国(アメリカ、イギリス、フランス)への感謝として
オベリスクがニューヨークに運ばれた年1880年
美術館とオベリスクの関係どちらも「ニューヨークを文化的な都市にする」という意図で同時期に設置

『クレオパトラの短剣』では、そんな文化と芸術の象徴ともいえる場所で、ミイラのような遺体が発見されます。華やかさの中に潜む闇が、より際立つ演出になっています。

特権階級(ニューヨークの上流社会)

本書では『上流階級』と『社交界』が重要なキーワードとなっています。ニューリッチとの線引きや階級の差が随所に描かれており、物語をより深く楽しむ上で欠かせないポイントのひとつです。

1880年代のニューヨークでは、
特権階級(Gilded Age Elite)の影響がとても大きかったようです。

代表的な富裕層の家族

  • ヴァンダービルト家(Vanderbilt)鉄道王
  • アスター家(Astor)毛皮貿易で財を成し不動産王へ
  • モルガン家(Morgan)金融界を支配した銀行家
  • カーネギー家(Carnegie)鉄鋼王

この物語では、アスター家が社交界のトップとして登場します。

ニューヨークに残ったオランダの影響

ニューヨークの上流階級の中には、17世紀のオランダ統治時代からの家柄を誇る家族が存在し続けました。

名家として残ったオランダ系家族

  • ヴァン・コートランド家(Van Cortlandt)
  • スカイラー家(Schuyler)
  • ヴァン・レンセラー家(Van Rensselaer)
  • ルーズベルト家(Roosevelt)(のちにアメリカ大統領を輩出)
  • ヴァンデンブルック家(Van den Broek)

主人公エリザベスのバンデンブルック家は、こうしたオランダ系名家がモデルになったのでしょうね。

ニューヨークの上流階級に入るには?|アスター夫人と社交界400

ニューヨークの上流階級に入るには?

19世紀のニューヨークの社交界は、限られた者だけが迎えられる特権階級の世界。そこに加わるには、アスター夫人に認められることが絶対条件でした。

アスター夫人とは

アスター家は、毛皮貿易で財を成し不動産王へと発展した名家。その本家の当主ウィリアム・アスター(William Astor)の妻が、キャロライン・アスター(Caroline Astor, 1830–1908)、通称 The Mrs. Astor です。

当時、アスター家には分家や親戚が複数いたため、彼女こそが『唯一のミセス・アスター』として認識され、社交界の頂点に君臨する存在として The Mrs. Astor と称されていました。

アスター夫人の息子も登場

息子ジョン・ジェイコブ・アスター4世(John Jacob Astor IV, 1864–1912)は、実業家・投資家として活躍し、当時アメリカで最も裕福な人物の一人でした。

1912年、47歳のとき、新婚の妻とともにタイタニック号に乗船。沈没時、女性や子どもを優先して救命ボートに乗せ、自らは船と運命を共にしました。最後まで冷静に振る舞い、『ノブレス・オブリージュ』を体現した人物として語り継がれています。

作中では、ジョンは16歳の少年として登場しています。タイタニック号で迎えた運命を思うと、なんとも言えない気持ちになります。

社交界400

アスター夫人が認めた者だけが、社交界の一員として、
「400」(The Four Hundred)に迎え入れられました。


The Four Hundred もThe Mrs. Astor 同様、ここでも「The」がつくことで、単なる「400人」ではなく、「唯一の400人」という特別な意味 を持っています。これは、社交界において特別な地位を示すものだったようです。

本書でも、主人公エリザベスの母親は、社交界に正式に迎えられることを何よりのステータスと考えていました。

スタイベサント・アパートメント(Stuyvesant Apartments)とは?

主人公エリザベスが一人暮らしをしているアパートメントが「スタイベサント・アパートメント」です。

スタイベサント・アパートメントってどんなアパートメント?

1870年に建てられたニューヨーク初のフランス風集合住宅(アパートメント)
当時のニューヨークでは画期的な建築であり、ここに住むことが「社会的ステータスの象徴」だったとされています。

基本情報

  • 場所:イースト18丁目(East 18th Street)
  • 建設年:1870年
  • 建築様式:ビクトリア朝ゴシック様式の5階建て
  • 設計:建築家 リチャード・モリス・ハント(Richard Morris Hunt)
  • 取り壊し:1960年以前に撤去され現在は存在していない


画期的な設備

各アパートメントには独自のトイレが備えられており、当時としては革新的な設備を持つ住居でした。

なぜ「フランス風」が特別だったのか?

それまでのニューヨークの住居はタウンハウス(長屋型の家)や木造住宅が中心でした。
そんな中、19世紀後半のニューヨークの富裕層にとって、ヨーロッパ、特にフランス風の石造りの豪華なアパートメントは憧れの住まい。

新たな ステータスシンボルとなっていったようです。

エリザベスの母親も、娘に箔をつけるために、『スタイベサント・アパートメント』に住まわせるという経緯がありました。

19世紀ニューヨークの食文化

小説に何度も出てきた印象的な食べ物や飲み物をご紹介します。

ベーグル

庶民の食べ物

  • 発祥地:ポーランド(東欧ユダヤ人の食文化)
  • 特徴:丸くて穴の空いた形をしている
  • 歴史:東欧のアシュケナジーム(Ashkenazi)系ユダヤ人の間で広く食べられていた

19世紀後半から20世紀初頭にかけて、ユダヤ系移民によって ニューヨークに広まりました。作中では、芥子(ケシ)の実とバター入りのベーグルが登場します。

エリザベスが友だちに勧められて初めて「ベーグル」を食べる場面も印象的でした。「大きなドーナツの形をしてるけど?」そんな何気ない会話が、ベーグルを食べる瞬間をより印象深くしています。

牡蠣カキ

庶民~上流階級 どの層にも親しまれていた

牡蠣+ビールは、当時定番の組み合わせだった。 
1ダースの生牡蠣が数セントで買えたほど、手軽に楽しめる食べ物だったようです。

17世紀
ニューヨーク湾には巨大な牡蠣の群生地(オイスターベッド)が広がっており大量に獲れていた。

20世紀
水質汚染や乱獲によって牡蠣の生息地が激減。
そのため現在では養殖が主流となった。

エリザベスの同僚が牡蠣とビールを楽しむシーンが何度も出てきます。読んでいると無性に食べたくなるほどでした。作中では、ニューヨークで一番古いパブ 「マクソーリーズ・エールハウス(McSorley’s Ale House)」も登場します。

エリザベスの実家の夕食メニュー

上流階級の食べ物

19世紀ニューヨークの上流階級の食文化を象徴する豪華な料理が登場します。

① 焼いた子羊肉(ロースト・ラム)
・羊肉は19世紀のアメリカでは富裕層向けの高級食材とされていました。

②白人参(パースニップ)
・パースニップ(White Parsnip)はヨーロッパ由来の根菜。
・甘みが強く、ほんのりキャラメルのような風味がある。
・子羊肉と一緒にローストするのが定番。

③ 蝶鮫の卵(キャビア)
・キャビアは19世紀のニューヨークでは超高級食材。
・当時はロシア産のベルーガキャビア や、アメリカ産(ミシシッピ川のキャビア)が富裕層の間で人気でした。

④ 海老(シュリンプ)
・ロブスターや大きなシュリンプは贅沢なご馳走とされていました。
・バターやクリームソースを添えて食べるのが一般的だった。

⑤ホワイトライオン(White Lion)というカクテル
・ラムをベースにしたスッキリした味わいのカクテル。
・19世紀のカクテルガイドにも記載があり、当時の上流階級にも楽しまれていたようです。

エリザベスの優しい父が作ってくれるこのカクテル。ときおり交わされる父娘の会話は、いつも温かく心に残るものでした。

アスター図書館とエジプト神話

アスター図書館とある人物の出会い

「アスター図書館」とは

その名が示す通り大富豪アスター家が設立した学術図書館です。

そこで、ある人物が「古代エジプトの神々」という本に出会う。
のちに「私はエジプトの神、冥界の王オシリスの生まれ変わりだ」と思い込むようになった場所として描かれています。

登場する古代エジプトの神々

オシリス神の死と復活の神話、そしてイシスの献身的な愛。
19世紀のニューヨークの背景と、古代エジプトの神が紡ぐ謎めいた雰囲気・・・。
これらがどう繋がっていくのか、まさに ミステリそのものです。

原題『CLEOPATRA’S DAGGER』のDAGGERを考察

原題 『Cleopatra’s Dagger』の直訳は、本書のタイトル通り『クレオパトラの短剣』となります。

「dagger」を調べると、一般的に「短剣」という意味ですが、象徴的な意味を持つ場合もあります。

そこで、以下のようなニュアンスが込められている可能性もあるのではないか?と考えてみました。

「Dagger」に込められた可能性のある意味

  • 裏切りや陰謀の象徴(短剣=暗殺や策略の道具)
  • 危険や脅威の象徴(短剣=何かを脅かす存在)
  • 儀式や神秘的な要素(呪いや秘宝の暗示)

巻末にも紹介されていましたが、本作には、実在の人物 トーマス・バーンズ警視(Thomas Byrnes)も登場します。


彼は史上最大の強盗事件を解決した名警察官でありながら、汚職によって最終的にセオドア・ルーズベルト(のちの大統領)に追放されました。


まさに、19世紀ニューヨーク警察の光と闇を象徴する存在です。

そんなニューヨークを舞台にした本作ですが、
まだまだ 「闇の力」のほうが大きかった時代 だったと考えると・・・。

なかなか意味深いものが隠されているなと感じました。

まとめ

『クレオパトラの短剣』は、ミステリーでありながら、19世紀ニューヨークの社会をリアルに描いた歴史小説としても楽しめる作品でした。

当時のニューヨークの成り立ち、移民の苦難、社交界の華やかさ、腐敗した警察組織・・。
こうした背景を知ると、物語の奥行きがぐっと深まる気がします。

「もし自分が19世紀のニューヨークにいたら?」 そんな視点で読んでみるのも、また面白いかもしれませんね。

thank you